スカイアンブレラXVIII /Your tender lovin' care

1/1
前へ
/1ページ
次へ
今回もダメだった。 もう何回目か…。 いや。何十回めか…だな。 またまたデモテープを送ってはみたが、どうやら今回も、またしても不採用らしい。 確かに狭き門… そうそう採用されるもんじゃない。 でももう10年か… 前にやっていたバンドも解散してしまったしな、 その後ソロでストリートミュージシャンを気取ってはいるが、要するに売れもしない歌手志望でしかない… 曲を作り、詞を書き、それを弾き語りして録音してデモテープをレコード会社に送る。 テープって言ってもまあデータだけど。 でも前は本当にテープを郵送していた。 そんな頃からやっているのに話は何一つ進みはしない…。 今回のオーディションで採用になったのは、 え?高校生か… 初めての応募で見事採用ね… 初めて作ったデモテープでいきなり採用されたか… 俺は10年かかっても一度も採用されないけどね。 こういうの、他所の世界じゃビギナーズラックって言うんだろうけど、才能が物を言うこの世界ではそうは言わない。 こういうのを才能がある、見込みがある、場合によってはスターと言う。 努力や長年の継続なんかでは乗り越えられない壁。 音楽の神様は最初から一部の人間しか愛していない。 愛されている者は才能があると言い、愛されていない者は幾ら努力しても何にもならない。 つまり10年も相手にされないような奴は音楽の神に愛されていない、才能なんかないから辞めなさいということかもね… 10年不採用というのはそういうメッセージと受け取った方がいいのかもな… でもこの採用された高校生、まだ2曲しか作ったことないのか… まあ中身のある名曲2曲を作ったのかもしれんけど、俺はたぶんもう200曲は作ってるよな… 100倍作っても成果ゼロか… はあ… かって付き合っていた彼女のことを想って作った曲もあるけど、その彼女もいつまでもくすぶっていて、どうにもならない俺に見切りをつけて別れを切り出し、さっさとどこかのリーマンと結婚してしまったな… まあそれが普通の女の処世ってもんだ。 俺が四の五の言える立場にはない。 ソロになってから50万円はたいて作ったCDもまるで売れてないし、MV気取ってyoutubeで流してる弾き語りの映像も再生回数さっぱりだしな。 ああ、でも、もうすぐ30か… 継続は力なりって言うけど、どこが? 何の力も生まれてないぞ。 話は何も進まないじゃないか… チリも積もれば山となる、ね… 確かに山は出来たが、チリの山、ゴミの山が出来ただけじゃないの… 俺の部屋の片隅には、不採用に終わった曲の譜面の紙の束が、チリの山、ゴミの山のように積まれている。 だったらちゃんと正確に、 "チリも積もればチリの山となる" って言ってくれよ。 それなら正確な物理現象として納得だよ。 まあ正確に、俺のことだけど… そんなことをグダグダ言いながら、俺は何でまたギターなんか手にしてんだ? これ以上まだ"チリの山"を作ろうってのか? "だって、デモテープ募集が他にもあったから…" いやいや、それはチリの山を何年もかけて作ってるお前さんに募集をかけてるんじゃなくて、初めて作ったデモテープですぐ採用されるような、あの高校生みたいな奴に向けて募集かけてんだよ。 お前にじゃねーだろ。 いい加減分かれよ。 仮にお前が審査する側だったとしても、求めているのはそういう才能だろ? そんなとこで、"継続は力なり"だの、"チリも積もれば山となる"なんて言われたって、ハイ、ハイってスルーするしかねーだろ。 "継続は力なり"も、"チリも積もれば山となる"もな、本当は音楽の神に愛されている奴限定の言葉なんだよ。 せっかく才能があって音楽の神に愛されているのに、中々現実的には日の目が出ない奴を辞めさせない為の言葉であって、お前に関係ない言葉だから。 そりゃまあ、わかっちゃいるんだが、そんなことウダウダ思ってる間に、また1曲出来ちゃったよ。 自分ではいい曲な気がするんだが、他人が聞いたら大した曲じゃないのかもしれん。 でもこれが自分の今の全力というか、実力だから、これ以上のものは無理だしな。 まあ色々あるけど、今日また路上ライブやるから、そこで歌ってみよう。 誰も俺の新曲なんか待ってる奴も期待してる奴もいないけど、せっかく出来ちゃったし、歌うだけ歌ってみよう。 その前にギャラリーなんているのかどうかもわからんけど…。 いよいよバイトを終えて、夕方の6時。 俺は"いつもの通り"まで歩いた。 この狭くて暗い路地を通って、真っ直ぐ行き、そこを左折すると"いつもの通り"に出られる。 ここはちょっとした近道で、基本的に誰も通らない道、いや元・道だった路地だが、"いつもの通り"に出るには近いので勝手に通らせてもらっている。 狭く暗い路地には当然の如く人は誰もいなかったが、真っ直ぐに歩いた。 全く灯の無い暗闇のような道。 まるで俺の人生みたいだ…。 そう思いながら歩いていると、そろそろいつもの左折する角が見えて来た。 そこから向こうはわりと見通しもいいので目の前の角まで急いだ。 だがその時、突然、 目の前が真っ暗になった。 いや、それまでも路上の道は暗闇だったが、でも今は、本当に全く何も見えない。 まさしく完全な闇だ! しかも俺の身体は明らかに地面から落下していた。 何だ? 何が起きた?! 俺はこの路上から落ちたのか? 身体が叩きつけられて転倒した。 少し身体に衝撃が走ったが、どうやら土の上に落ちたようで大怪我をしたわけではないようだ。 これは、 穴に落ちたのか? でも何でこんなところに穴なんか? すぐに携帯で110番に電話してみたが、穴の中だからなのか圏外になってしまい、全く電話が通じない。 メールもネットにも繋がらない。 たかだか圏外ってだけで、ただの平べったい文鎮にしかならないとは… スマホなんてその程度のものか…。 まぁスマホに当たっても仕方ないが結局どうにもならない。 俺は、まるで自分の人生みたいな灯一つ無い路地を歩いていて、さらなる全くの暗闇の穴に落ちたのか? どこまでツイてないんだ… そこまでツイてない人生に、もう怒る気力もない。 最初からこういう人生だったのだ、と諦めた方が早い。 そう思っていたからか、俺は土の上に落下して横転したまま、そのまま動く気力もなく、寝転がったままでいた。 それから1時間くらい経っただろうか。 いくらなんでもずっと寝転がっているのにも飽きて、俺は少し起き上がって、穴の底から地上の方を見た。 外に向かって穴の底から叫んで助けを呼んでみたが、どうにもならなかった。 俺は結局、何をやってもどうにもならない人生をやってるだけだ。 普通の日常生活すら思い通りにならない、どうにもならない人生をやってるのに、こんな非常事態にどうにかなるわけがない…。 それからまた1時間ほど経ったが、ただただ、どうにもならないだけだった。 そうだ、今までも何をやってもどうにもならなかった。 元々絶望しかない奴にさらなる絶望が追い打ちをかけてきたのだ。 いわゆる万事休すってやつか…。 そういえば昔、「万事休す」ってタイトルの曲書いたな… あの時も何もうまくいかなくて、万事休すだと思ってそういう曲を書いたんだが… 万事休すか… 絶望ね… だがその時急に、俺は奇妙な怒りを覚えていた。 10年も経って、俺を万事休すだの絶望だので責め落とそうなんて、いくらなんでも馬鹿にしてるんじゃないのか? それじゃあ俺の10年は何だったんだ? そんなことに無性に怒りが込み上げてきた。 俺は穴の中を見回した。 無謀にも穴をよじ登ろうとしてみた。 全く歯がたたない。 何回か試してみたがどうにもならない。 一歩も上には進めない。 何度も何度もよじ登ろうとしたが、全く話が進まない。 まさに俺の10年の人生そのものだ。 継続は力にならない チリも積もればチリの山が出来るだけ… そんなことをまた思い知らされた。 その時、不意にボルダリングというのを思い出した。 この穴の壁にとっかかりを作れば、それをつたって、上に上がれるんじゃないか? すぐにそう思った。 俺は財布を取り出して、中から500円玉を手に取った。 これでこの石だかコンクリートだかの壁を削るしかない。 だが1時間ほどやってみたが、壁の石とコンクリートはかなり固く、まるで削れなかった。 またしても無駄な努力だったか… またしても継続は力にならなかった… こんなのばっかりだ… 俺はだんだん腹が立ってきて、こうなりゃ、ここで死ぬまでギターを弾いて歌を歌いながら死んでしまえばいいんじゃないか?と思った。 それならそれで本望だ。 神に見放されてる売れない歌手志望が、さらに今度は訳の分からない穴に突き落とされて、その地の底から呪いの歌を歌って死ぬなんてのも悪くないよ。 俺はそう思ってギターのケースを開けて、中からギターを取り出した。 せっかくだから、今日路上で歌う予定だった新曲を歌ってみるか… そう思いながらギターを掻き鳴らして歌っていたら、せっかくこんな新曲が出来たのに、こんなところで死ななきゃならない事に無性に腹が立ってきて、やたらと涙が流れて仕方がなかった。 悔しくてたまらなくて、ギターを思いっきり、力一杯掻き鳴らした。 その時ギターの弦が切れてしまった。 今更ギターの弦なんて… だがその時不意に、切れてしまったギターの弦の先が目に入った。 ギターの弦… 所謂、糸だ。 普通の糸より少しハリがあって頑丈な… ロープ代わりに使えないか…? すぐにそう思った。 俺は急にギターを弾くのをやめてギターの弦を取り外し始めた。 そして全ての弦を取り外すと、それを固く結んで1本の弦にした。 弦はそれなりの長さになった。 弦を穴の底から地上に向かって投げてみた。 何かに引っかかってくれれば、それで自然に上に上がることが出来る。 だが、どれだけ投げても、何かに引っかかっるという事はなかった。 そんな事は分かっていた。 あのいつもの暗い路地には何も有りはしなかったから。 せっかく弦を繋いだのに。 またしてもどうにもならない…。 もう弦をギターから外してしまったから、ギターを弾いて歌いながら死ぬことも出来ない。 こんな状況でもう一回ギターの弦を張り直すなんて、そんなこと今更やる気力も起きない…。 俺は心の底から絶望して地上を見上げた。 地上に何も無いことはわかっている。 あそこで生きていた時も、俺の人生には何も無かった。 穴の底から見上げようと、地上に居て、地べたを這いずり回っていようと、何もありはしなかった…。 と思った、その時… さっきまで全くの暗闇にしか見えなかった地上が、長時間ここにいて目が慣れてきたからか、少しだけ暗闇の中に微かな明るさと言うか、所謂、夜の暗さが見えた。 すると、その地上の上の方に何かが引っかかっているのが見えた。 あれは何だ? 目を凝らした。 傘だった。 傘が一つ、何かに引っかかっている様子だった。 さっきから弦を投げてもまるで引っかからないくらい辺りには何も無いはずだが、地上の上の方の何かに傘が引っかかっているのは間違いないようだ。 あの傘の柄の部分にギターの弦を引っ掛けられたら… しかし何であんなところに傘が引っかかっているんだ? それはどうにも疑問だったが、もはや、やる事は一つしかない。 あの傘に向かって、ひたすら弦を投げ続けるしかない。 何度も何度も… 今まで10年間、何度も何度も、落ちても落ちても、誰にも相手にされなくてもデモテープを送り続けてきたように… "チリも積もれば山となる" なんて事はこれまで一度もなかった。 だが "チリも積もればチリの山は出来た" 俺の部屋の片隅には、不採用に終わった曲の譜面の紙の束が、チリの山、ゴミの山のように積まれている、その光景を毎日見てきた。 こうなりゃ、"ゴミの山"を登ってやればいいだけだ。 それから何度も何度も、ギターの弦を、地上の上の方に引っかかっている傘に向かってひたすら投げ続けた。 もう何百回と投げつけてるような気がするが、中々弦がもう一つ傘まで届かない。 もう腕が張って、痛くて動かなくなってきた。 それに腕だけでなく、身体中が筋肉痛でもう痛くてたまらない。 ほとんど意識が朦朧としてきて気を失いそうだ…。 神が俺を見下ろして、せせら笑っているか、平気で無視しているような気がしていたが、何故かもう腹が立たなくなっていた。 "神がどうだろうと、お前のことは一番よくわかっている。" "10年間、何もかもどうにもならなかったけど、だけどお前はまだギターを持って路上に立っている。 そのことはよくわかってるんだよ。 俺がわかってるんだから、それでいいじゃないか。" 俺って、あんたは誰だ? "俺はあんた、お前だよ。 お前がお前のことを一番わかっている。 全て何もかもお前が全部わかってるんだ。 お前だけはお前を見放したりはしない。 神がどうだろうが、お前はお前のことを全部わかってるんだよ" 確かに。 俺は俺のことを一番わかってる。 その通りだ。 神なんか知るか。 今のところ、ギターの弦がかなり近くまで飛んでるのは確かだ。 傘の柄の部分に届くには後少しだ。 後、もう少しだけ…。 その時、また弦を投げようとした時、ふと足に何かが当たって少しつまずいた。 転びそうになってギリで身体を支えたが、その刹那、手に当たったものを見た。 小石だった。 小石… そうだ… ギターの弦にこの小石を縛り付けて上に投げる。 たぶん今までより高く飛ぶだろう。 そいつをあの傘の柄に引っ掛ける。 そう思いついて、俺はすぐにギターの弦に小石を縛りつけた。 そして地上高くに引っかかっている傘の柄に向かって弦を投げた。 何度も何度も… 100回くらい投げたか? 腕が痛い… だが後もう少し… その時、突然、投げた小石が傘のところまで飛び、ついに弦が傘の柄の部分に引っかかった。 やった…! しかしこれでまだ上に登れるわけじゃない。 だが後もう少しだ… その時、またボルダリングの映像を思い出した。 手は傘に引っかかった弦に掴まったまま、足で穴の壁を蹴り上げて登ればいい。 俺はまずギターを地上に向かって投げた。 ギターが地上に届いて、上に上がってくれた。 後は俺が上がる番だ。 何度叩き落とされても、この"ゴミの山"を登ってやる。 何度目だか、 いや何十回目だか、 ひょっとしたら何百回目だったか知らないが、俺はひたすら叩き落とされていた。 もう身体中が痛くて悲鳴を上げている。 手の感覚はもう無い… だが傘に引っかかったギターの弦だけは絶対に手放さなかった。 その時だった。 何百回目だかわからないが、穴の壁を足で強く蹴り上げた時、不意に今まで以上に大きな反動があった。 その瞬間、身体がふわりと宙に舞った。 俺はここぞと一気に地上に向かって飛び込んだ。 だが足に地上の感触がない… またダメか… しかし目の前に、地上の先端の崖っぷちが見えた。 俺はすかさずそこに手をかけた。 何とか片方の手で地上の先端の崖っぷちに手が届いた。 そしてもう片方の手で、ずっと握り締めてきたギターの弦を引っ張った。 身体が少しずつだが上がっていく。 俺は身体を思い切り振って、一気に足を地上に向かって放り込んだ。 身体がひっくり返った。 その時、俺の背中は地上の地面に叩きつけられ、身体ごと地上に這い上がっていた。 やった…! だがもう身体中痛くて、気を失いそうだ… 意識をほとんど失いそうなまま、俺はその這い上がった地面にひたすら倒れ続けた。 と、その時だった。 目の前で訳のわからないことが起こった。 さっきまでかなり上の方にあったあのギターの弦を引っ掛けた傘が、俺が倒れているところまで降りてきたのだ。 いや、それだけじゃなく、何故か急に現れた大量の傘が俺のところに落下してきたのだ。 「うわぁぁ!!」 これで万事休すか、 これが本当の万事休すか… 俺は大量の傘に潰されて死ぬのか?! そう思った矢先、何故か俺の身体は宙に浮いていた。 何だ? 一体何が起こった? 俺はそのまま、何故だか空を舞っていた。 ああ、俺は本当は死んでいたのか… そうか、これはお迎えが来たというやつか… やっぱり俺は何をやってもダメなまま死んだのか… そう思いながら宙を舞っていると、いきなりまたしても地面に叩きつけられた。 「痛ぇ!!」 痛い? それは明らかに身体的な痛みだった。 こんな痛みが走るのは生きている証拠だ。 俺はこんな生きていることの痛みを、今の今まで嫌というほど知っている。 俺は死んでなどいなかったのか? すると目の前には大量の傘がいて、しばらくすると全ての傘が、天空高くに舞い上がっていった。 何が何だかさっぱり訳がわからなかった。 だがその叩き落とされた地面の辺りを見渡すと、そこは俺がずっとライブをやり続けてきた"いつもの通り"のあの路上だった。 俺は自分のライブ会場に到着していただけだった。 空を見た。 そろそろ夜も白々と明け始めた頃のようだ。 この通りは深夜と言えども、それなりにいつも人通りがあるが、こんな早朝に近い時間ともなると、さすがに誰もいやしない。 だが俺はしばらくすると、復活するように痛くてたまらない身体を起こして立ち上がり、ギターの弦を張り替え始めた。 こうなりゃデモテープがオーディションで100回落ちようが200回落ちようが、曲を作って作って作りまくってここで歌ってやる。 あの地獄の底のような穴から抜け出すキツさに較べたらそんなもの屁でもない。 神がどうだろうと、俺のことは俺が一番よくわかっている。 10年間、何もかもどうにもならなかったけど、だけどまだギターを持って、この路上に立っている。 そのことは俺が一番よくわかってる。 俺がわかってるんだから、それでいいじゃないか。 俺だけは俺を見放したりはしない。 神が見放そうが、俺だけは俺を見放したりはしない。 そうやって今、あの地獄の底の穴から抜け出して、このライブ会場にまた立っている。 どれだけでも歌ってやる…。 こんな早朝の時間、 誰もいない通りで、俺は新曲を絶叫して歌った。 誰も聞いていなくても、まずは俺に向けて歌ってやりたかった。 その後は、あの穴蔵の中で俺を支えてくれた「万事休す」を熱唱した。 誰も聞いていなかろうが、俺はここに立って歌うしかない。 それしか出来ないんだよ。 その時、ギターケースの中に不意に500円玉が投げ込まれた。 驚いて、ふと投げられた方を見ると、そこには奇妙な老人がいて、こちらに向かって微笑んでいた。 その老人のこちらに向ける視線には、何故か覚えがあった…。 「ROCKNROLL!」 老人はしわがれた声でそれだけ言うと、いつの間にか霧のように消えてしまった…。 その時、不意に、あのさっきの傘のことを何故か思い出した。 あの時、あの傘は何故あんなところに引っかかっていたのか? 後で傘が引っかかっていた辺りを見たが何かが引っかかるような物は何もなかった。 それにあの大量の傘… あれは一体何だ? このライブ会場に俺を連れてきたのも、あの大量の傘の群れだ。 あれは… 何だったんだ… あの大量の傘の群れが何なのかは、さっぱり訳がわからない。 だが前に、ちょっと噂を聞いたことがある。 都市の高層ビル街の空を飛び交う、空飛ぶ傘=スカイアンブレラ。 そんな都市伝説を、ふと思い出した。 ある時、人は、それを目撃することが出来る… スカイアンブレラ… 俺は本当に、神に見放されているのか…? ちょっと疑問に思えてきた。 だって、さっき、"ロックの神様"がお前の目の前に居たじゃないか…。 あの視線を、そう言えば、前にも感じたことがある…。 それに、今日のこんな早朝に近い時間のギャラリーは、あの老人だけだ。 「ROCKNROLL!」 俺は天空に向かって、親指を立てて、そう呟いた。 "俺だけは俺を見放したりはしない…" 俺はただ、そのことを教わっただけなのかもしれない… 夜はもうは完全に明けて、朝日が昇り始めていた。 清々しい朝だ。 俺はもう一度、出来たばかりの新曲を歌って、これからも、ずっとここに立ち続けることを、自分に誓った。 (終)
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加