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千紗の過去
千紗がバイト先の店の奥にある控室のドアの前に立つと、中から2人の男性の声が聞こえた。
「お前、千紗ちゃんと付き合ってんのかよ。大学に嫉妬深い彼女いたよな」
「あー、可愛いから。彼女とケンカした次の日に声かけた」
「いや、その前に2股だろ」
「2股つーか、浮気かな」
ドアを思いっきり開ける。
「ふざけんなっ」
怒鳴り声で目が覚めた。自分の声だったようだ。
「夢か」
ここ最近、毎日のように同じ夢を見る。きっと3股男に出会ったせいだ。
高校1年の秋の出来事だった。現実は夢と違う。
彼女がいたなんて知らなくてショックで声が出なかった。体調が悪いと店長に伝えて帰ろうと店の裏口から出たら、千紗より少し年上らしい女性数人立っていた。名前を確認されて、腕を引っ張られて人気のない公園の隅に連れていかれた。そこで、さっきまで彼氏だと思っていた男の彼女とその友人だと知った。さんざん罵られて、肩まであった髪をはさみで切られた。1人公園に取り残されて、「あー嫉妬深い彼女なんだっけ」なんて短くなった髪を見ながら他人事のように考えていた。
同じクラスで仲が良い田中悠里に連絡して、ハサミを持って公園まで迎えに来てもらった。美容師の姉を持つ悠里は黙りこくった千紗に何も聞かず、「見よう見まねだよ」と、見栄えが悪くないように髪を切り揃えてくれた。
あれから1年半。
千紗は誰とも付き合っていない。彼氏が欲しいとも思わない。そして、もう二度と女の嫉妬に巻き込まれたくはない。心からそう思っている。
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