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出会い
千紗が葉桜が覆う校門をくぐると、後ろから左肩をたたかれた。
「おはよっ」
振り向くと、田中悠里が胸元まである艶やかな黒髪をなびかせながらクールな笑顔を見せていた。悠里は1年生のとき同じクラスになって仲良くなった。千紗の肩をたたいた手はそのまま肩に置かれている。春休み何してたとか他愛のない会話をしながら下足室へ2人で向かう。下足室では教師が数人立っていて各学年のクラス分け表を配っていた。生徒たちは家から持参した上履きに履き替えてクラス分け表を受け取り、さまざまな感嘆の声を上げながら、決められた教室へと向かっていく。千紗と悠里もクラス分け表を受け取って、3年生の教室がある棟へと向かいながら、自分たちのクラスを確認する。千紗は少し顔にかかるショートボブの横髪を耳にかけ、自分の名前を探す。
「あ、私、A組だ。悠里も一緒だよっ」
悠里も自分の名前を見つけたようで、長い黒髪を整えて千紗を見た。
「1年間、よろしくねっ」
2人でハイタッチをしていると、後ろから、おはよう、と声がかかった。
「朝から元気だな。あ、俺も一緒のクラスだからよろしくー」
千紗と悠里の間に強引に割り込んできて話すのは悠里の恋人でサッカー部のエース石川蓮だった。3人でA組の前までくると人だかりができていた。女子たちが黄色い声で騒いでいた。
「南くーん、一緒のクラスになれなかったー」
「私、同じクラスだよ。でも席が遠いー」
黄色い声に混じって低く声も聞こえる。
「相変わらず、南はキレイな顔立ちだな。」
「鼻筋通ってて、肌が白くて、目が澄んでる。女子よりもキレイって罪だよな~」
千紗は騒がれている生徒の名前を耳にして手元のクラス分け表をもう一度見た。松村の後ろに南大輝の名前があった。
「同じクラスなうえに出席順が並んでるじゃん」
つぶやいた声が悠里と蓮に聞こえたようで不思議そうな表情で千紗を見つめる。蓮が人混みをかき分けて教室に入り、その後を悠里と千紗が続く。目を輝かせた大輝が声をかけてきた。
「あー、蓮。同じクラスだなっ。よろしくなー。田中さんと松村さんも仲良くしてくれよ」
そういうと大輝は蓮とハイタッチをする。悠里や千紗ともする気だったようで、上げた手を差し出してきたが、女子たちの大きな声で遮られた。
「石川くんはともかく、田中さんや松村さんとハイタッチってなに!?」
「ねえ、そんなことより南くん、私と付き合ってよー」
千紗は目を丸くする。大輝は驚くことでもなかったようで、軽く口角を上げて答える。
「いいよー。でも、すでに俺3人彼女いるよ」
女子たちからは悲鳴が、男子からは歓声が漏れた。千紗は教室の奥、窓際の自席に向かおうと大輝の横を通りすぎようとしたとき聞こえるか聞こえないかくらいの声でつぶやいた。
「軽いな…」
千紗は背中のほうから視線を感じて振り返る。大輝が真顔で見てきていた。
担任の教師がやってきて他クラスの生徒は自分の教室へ行くように促した。A組の生徒はその間に各々自席に着いた。始業式恒例、校長の長い挨拶は校内放送で流れた。終わると、担任は教壇に立って教室全体を見回す。
「担任の高森だ。1年間よろしく」
千紗たちにとっては親くらいの年齢であろう高森は、明日からの時間割など連絡事項を淡々とつたえるが、どこかしら温かみを感じる教師だった。
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