苟晞伝

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驕れる者久しからず。 13. 晞出於孤微,位至上將,志頗盈滿,奴婢將千人,侍妾數十,終日累夜不出戶庭,刑政苛虐,縱情肆欲。遼西閻亨以書固諫,晞怒,殺之。晞從事中郎明預有疾居家,聞之,乃舉病諫晞曰:「皇晉遭百六之數,當危難之機,明公親稟廟算,將為國家除暴。閻亨美士,奈何無罪一旦殺之!」晞怒白;「我自殺閻亨,何關人事,而舉病來罵我!」左右為之戰慄,預曰:「以明公以禮見進,預欲以禮自盡。今明公怒預,其若遠近怒明公何!昔堯舜之在上也,以和理而興;桀紂之在上也,以惡逆而滅。天子且猶如此,況人臣乎!願明公且置其怒而思預之言。」晞有慚色。由是眾心稍離,莫為致用,加以疾疫饑饉,其將溫畿、傅宣皆叛之。石勒攻陽夏,滅王贊,馳襲蒙城,執晞,署為司馬,月餘乃殺之。晞無子,弟純亦遇害。 (訳) 苟晞は微賎の出身であったが、 位は上将に至り、 志を頗る満たしていた。 奴婢千人、侍妾数十を引き連れ、 終日連夜家の庭に出る事なく、 刑罰、治政は苛虐であり 感情や欲望の赴くままに振る舞っていた。 遼西の閻亨(えんきょう)が書状によって 断固として諌めると、 苟晞は怒り、彼を殺してしまった。 苟晞の従事中郎の明預は 病気に罹って在宅していたが この事を聞くと、そこで 病をおして苟晞に諫言した。 「皇晋が百六の数に遭われ 危難の時に当たりて 明公は自ら廟算を()け 国家の暴乱を除かんと しておられた筈です。 閻亨のような美士を、なぜ 一つの罪もないのに 殺してしまったのですか!!」 苟晞は怒って言った。 「我自ら閻亨を殺した事は 人の与り知る所ではないわ。 わざわざ病をおして 我を罵りに来たのか!」 左右の者がこの為に戦慄すると、 明預は言った。 「明公が礼を以て昇進を被ったために (わたし)も礼を以て 自ずから尽力せんと考えたのです。 今、明公は預に 怒りを向けておりますが もし遠近が明公へ 怒りを向けられたなら 如何になされます! 昔、堯舜が上にましますみぎり、 和を以て(おさ)めることで 国は隆興いたしましたが、 桀王や紂王が上に在りし頃には 悪逆を以て国を滅ぼしてしまいました。 天子ですらなおかくの如くですのに ましてや人臣ならば なおさらでございましょう。 願わくば明公には 一旦その怒りを静められて 預の言葉について 思索を巡らせて いただければと存じます」 苟晞に慚愧の色が浮かんだ。 この事から、人々の心は しだいに苟晞から離れていき、 人材の運用が不可能となった上、 疫病と飢饉により 部将の温畿(おんき)傅宣(ふせん)がみな叛いてしまった。 石勒が陽夏を攻めて王贊を滅し、 馬を馳せて蒙城を襲撃したため、 苟晞は捕われ、署されて司馬となった。 一ヶ月余りして、殺された。 苟晞に子はなく、 弟の苟純もまた殺害された。 (註釈) 唐突に身の上話が始まるのは もう死亡フラグですね。 極貧の出自から 一州の長官になったって めちゃくちゃスゴイのに。 いつしか 召使いと綺麗な姉ちゃん侍らせて 欲望の権化と化してしまい 「屠伯」などという 不名誉なあだ名を付けられ 終いには奴隷あがりの胡族に 殺されてしまうのであった。 どんな生まれ持った才能も 長年の努力も、一瞬の驕りが 人を風化させちまうからなぁ。 (黒沢義明 2022.4.2
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