顧栄伝

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やっとる場合かーッッ!! 6. 元帝鎮江東,以榮為軍司,加散騎常侍,凡所謀畫,皆以諮焉。榮既南州望士,躬處右職,朝野甚推敬之。時帝所幸鄭貴嬪有疾,以祈禱頗廢萬機,榮上箋諫曰:「昔文王父子兄弟乃有三聖,可謂窮理者也。而文王日昃不暇食,周公一沐三握發,何哉?誠以一日萬機,不可不理;一言蹉跌,患必及之故也。當今衰季之末,屬亂離之運,而天子流播,豺狼塞路,公宜露營野次,星言夙駕,伏軾怒蛙以募勇士,懸膽於庭以表辛苦。貴嬪未安,藥石實急;禱祀之事,誠復可修;豈有便塞參佐白事,斷賓客問訊?今強賊臨境,流言滿國,人心萬端,去就紛紜。願沖虛納下,廣延俊彥,思畫今日之要,塞鬼道淫祀,弘九合之勤,雪天下之恥,則群生有賴,開泰有期矣。」 (訳) 元帝が江東を治めるようになると 顧栄は軍司となり、散騎常侍(さんきじょうじ)を加えられ、 凡そ謀を描く時には いつも諮問を受けていた。 顧栄は兼ねてより南方の州で 人望のある士人であり、 躬ら右職を処し 朝野は甚だ彼を推し敬っていた。 このとき、帝は病に罹った 鄭の貴嬪のもとへ御幸し、 祈祷する事によって 頗る万機(様々な仕事)を 打ち遣ってしまっていたが、 顧栄は上書して諫言した。 「昔、(周の)文王の父子兄弟は 三聖と称されており、 理を窮めていたと謂うべきです。 しかるに文王が朝から晩まで 食事をする暇もなく、周公旦が 一度の沐浴で三度(中断して) 髪を握ったのは何故でしょう。 まこと、一日万機 (一日の中の重要な仕事はたくさんある、 天子を戒めるための言葉) を(おさ)めずにいられず、 一言の差跌によるわざわいが 必ずやこれに及ぶと 考えていたためなのです。 今は衰世の末期に当たり 乱離の運命に属して、天子は流浪され、 豺狼が路を塞いでおります。 貴公は露営し、野宿をされ 急いで車駕を起こし、 怒った蛙にも伏軾(ふくしょく)する事で 勇士を募り、庭に懸膽(けんたん)して 辛苦を表すべきです。 貴嬪はいまだお元気にならず お薬や治療が今にも必要でしょう、 禱祀(とうし)の事はまことに また修むるべきですが、 どうして補佐の者の進言を塞ぎ 賓客の訊問を断ってまで 行う必要がございましょうか。 今、手強き賊が境域に臨み、 流言が国に満ち満ちて 人々の心は万端(ごちゃごちゃ)、 去るにも留まるにも 紛紜(ごたごた)としております。 どうか、お心を空虚にされて 下々(の意見)を納れられ、 俊彦(しゅんげん)を広く招かれ 邪道や淫祀をお断ちになられ 広く糾合にお勤めくださり 天下の恥を雪がれますよう。 さすれば、群生(ぐんじょう)から頼みとされ 期日を定めて泰平を招く事ができましょう」 (註釈) 文王、周公旦、越王を引き合いに出して 元帝を諌める顧栄。 療養の祈祷なんかしとる場合かーっ!! ってことね。 周公一沐三握發、は 周公旦が髪洗ってる最中でも 人が来ればすぐ中断して 面会した故事、 その後に来訪があれば メシをすぐ吐き出して臨んだことも、 総じて「握髪(あくはつ)吐哺(とほ)」です。 伏軾怒蛙以募勇士、は 越王が、自分に向かってきた蛙に 敬意を払ったという故事。 蛙でも敬意を払われるなら いわんや勇者をや、です。 2022.6.3
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