24人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
さて、夕飯はどうしようか。契約書を机の上に置く。
冷蔵庫の中には何もない。スマホでコンビニを検索してお弁当でも買おうかなと上着を羽織り、出かける準備をする。
すると、ガチャリと鍵が開く音がした。今、確実に鍵を差し込まれて開けられた。何者だ?鍵は今ほたるの手元にある。一体どういうこと?ほたるは心臓をばくばくとさせながら瞬きもできずにゆっくり空いていく扉を見つめる。逃げたいと思ったが、体が動いてくれなかった。そして――
「おい、いるか?」
玄関から顔を出したのは金髪男。
ほたるはいきなりのことでぽかんとしてしまい、口をあけたまま彼を見つめる。
「お、出かけるところだったか?」
「ええ、ちょっとまって、どうして?」
金髪はにやりと笑って、ズボンのポケットから鍵を取り出した。
「合鍵、持ってるんだよ」
「はあ?」
わけがわからず、すっとんきょうな声が出た。
「やっぱり物騒だよなって思って、返しに来たんだからいいだろ」
勝手に靴を抜いて上がって来ようとする。
「来ないでください!」
「ああ?」
ほたるが大きな声で拒否すると、彼はその場にとどまったが
「ああ、襲われるんじゃねえかって思ってんだな?大丈夫だよ、俺だって選ぶ権利はあるんだから」
からかう口調だった。
なんて失礼なことを。かっと顔が赤くなる。
「それより、どこに行こうとしてたんだ?」
「別に……どこだって関係ないですよね」
そりゃそうだが、と金髪男は鼻を鳴らした。
「初めての場所でこんな時間に外に出るのは危なくねえか?」
「こんな時間って……まだ6時ですけど」
日は傾いているが、外はまだかすかに明るい。危ない時間ではなかった。もっと遅い時間に外を歩いたことなんて何度もある。
「ま、いいや。これ夕飯に作ったんだけどよかったら」
どうやらこちらの話をまともに聞く気はなさそうだ。ほたるが玄関まで歩いて行くと、差し出されたのはタッパに入った焼きそば。
「……作ってくれたんですか?」
「別にお姉さんのためじゃねえよ、俺の夕飯のついでだ。怪しいもんは入ってないけど、嫌なら捨ててくれ」
鍵と一緒に手渡され、じゃあなと去っていった。
タッパの中はあたたかい。
どうしようかと焼きそばを見つめた。普段だったら人からもらったもの、それも今日会った人からもらったものなど、手を付けないだろう。それでも、ここに来てから何も食べていないのでとてもお腹が空いている。嫌な人ではあるが、ぐうとお腹が鳴った。
ローテーブルまでそれを持って行き、冷蔵庫からお茶を取り出して、両手を合わせる。
「いただきます」
一口、口に運ぶ。おいしい。
家で温かい食事を食べるのは久しぶりで、気がついたら涙が出てきた。いつもコンビニ弁当や総菜ばかりの食生活だったので誰かが作ってくれたものなんて久しぶりに食べた。
祖母が昔作ってくれた焼きそばと同じ味がして、さらに泣けた。
その日は疲れていたのだろう、お風呂に入るとあっという間に寝てしまった。
最初のコメントを投稿しよう!