さざなみのはざま、しじま

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 面談が終わったのか、部屋の中から二人が連れ立って出てきた。女子生徒はうわ、と路地裏でネズミでも見つけたかのような声を出して、チューターにしがみつこうと身を捩る。チューターは意に介した様子もなく、自然にしゃがみ込んで私に手を差し伸べる。 「気分悪かった? 気付かなくてごめん。救護室行こうか」  チューターは振り返り、女子生徒に帰るよう促す。 「救護室送っていくから気を付けて帰って」  名残惜しがる女子生徒のキンキンと響く声と足音が遠ざかるのを確認すると、歩ける? とチューターは小さな声で問い掛けてきた。自力で立つことすらままならず、小さく首を横に振る。差し出された腕に身を任せ、肩を抱えられる。おぼつかない頭で彼以外の男の人と接するのはこんな感覚か、と思う。彼の体に触れる時とは違い、体が勝手に強張り、どこかぎこちない動きをしているのを感じた。  救護室に着くと、ベッドに降ろされる。学校とは違い、校医のような人はいない。昼間であれば事務の人が対応してくれるが、もう誰もいなかった。 「体調が悪いのに気付けなくてごめん。お迎え呼ぶことはできる?」  私は再び首を横に振った。父はすぐに来ることができないし、私がここで母を呼び立てることの利益に比べて、看護師が一人減ることで起こる弊害の方が遥かに多いだろう。どんなに体調が悪くても、私は一人で帰った。誰もいない家に。彼やその家族はそんな時は頼ってと言うが、頼ることなどできなかった。正確に言えば、頼り方が分からなかった。 「じゃあ落ち着いたら家まで送っていくよ。終わるまであと三十分くらいあるから、それまで待ってて」  チューターはそう言って救護室の扉を閉めた。扉が閉ざされた瞬間、誰もいない空間が現れほっとひと息吐いた。ようやく心が安らいだ気がした。  大勢の人がいる空間に一人いるのと、一人きりでいるのは別物だと思う。教室に居てもそうだが、皆で一緒にいると言う感覚になれない。自分の家に居ても、彼の家に居ても。彼を除いて、自分以外の他者がいる空間はどこか居心地が悪かった。
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