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「私が生きてるのに、意味なんてないんです。誰にも必要とされてないんだから。そうなるように追い込んでおいて、全部自己責任だって押し付けるのが社会でしょう?」
「そんなことは……」
皆が行くからと言う理由では大学に行く気になれなかった。彼が行くならと思ったけど、それすらもう叶わない。だってそれは、彼が私のことを必要としていないと言うことだから。
「確かに社会は助けてくれないかもしれないけど、助けたいと思ってる人もいるよ。俺みたいに」
人気があるのも分かる気がする。他のチューターが女子高生に黄色い声を上げられてヘラヘラしているのに対して、この人は目の前の人間を見てくれる。本当にできる手助けの全てをしようとしてくれる。誰にでも優しくて、等しく平等で、それが時に誰かを傷付けることにすら気付いていない。
「でも、無力じゃないですか。私の家庭環境を変えられる訳でもないのに」
誰かの特別になりたい。生きていていいと思わせて欲しい。私のことを、分かってほしい。どれか一つでもいいから叶えてくれたなら、私はその人のために生きていくのに。
「……家を、出るのはどうかな。遠くの大学を受験してさ。近すぎるからこそ苦しいことは、あるよね」
彼とのことは知らないはずだから、両親との関係を言っているのだろう。家庭内別居が長く続いているから、そちらは今更どうと言うこともないのだけれど。
目を伏せながら言葉を繋ぐ姿からは、普段のはつらつとした様子を感じられない。明るくて何も迷ったことのない人だと思っていたけど、本当は違うのかもしれない。目に見えないからと言って、何も感じていない訳ではないのかもしれない。私が誰かに分かってほしいように。
他人のことをそんな風に思ったのは、初めてのことだった。
「そのための手助けなら、俺にもできるからさ」
私は差し出されたその手を取った。
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