さざなみのはざま、しじま

7/10
前へ
/10ページ
次へ
「私が生きてるのに、意味なんてないんです。誰にも必要とされてないんだから。そうなるように追い込んでおいて、全部自己責任だって押し付けるのが社会でしょう?」 「そんなことは……」  皆が行くからと言う理由では大学に行く気になれなかった。彼が行くならと思ったけど、それすらもう叶わない。だってそれは、彼が私のことを必要としていないと言うことだから。 「確かに社会は助けてくれないかもしれないけど、助けたいと思ってる人もいるよ。俺みたいに」  人気があるのも分かる気がする。他のチューターが女子高生に黄色い声を上げられてヘラヘラしているのに対して、この人は目の前の人間を見てくれる。本当にできる手助けの全てをしようとしてくれる。誰にでも優しくて、等しく平等で、それが時に誰かを傷付けることにすら気付いていない。 「でも、無力じゃないですか。私の家庭環境を変えられる訳でもないのに」  誰かの特別になりたい。生きていていいと思わせて欲しい。私のことを、分かってほしい。どれか一つでもいいから叶えてくれたなら、私はその人のために生きていくのに。 「……家を、出るのはどうかな。遠くの大学を受験してさ。近すぎるからこそ苦しいことは、あるよね」  彼とのことは知らないはずだから、両親との関係を言っているのだろう。家庭内別居が長く続いているから、そちらは今更どうと言うこともないのだけれど。  目を伏せながら言葉を繋ぐ姿からは、普段のはつらつとした様子を感じられない。明るくて何も迷ったことのない人だと思っていたけど、本当は違うのかもしれない。目に見えないからと言って、何も感じていない訳ではないのかもしれない。私が誰かに分かってほしいように。  他人のことをそんな風に思ったのは、初めてのことだった。 「そのための手助けなら、俺にもできるからさ」  私は差し出されたその手を取った。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加