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「今すぐって訳じゃないけど、県外の大学を受験することにしたから。彼氏ができたから今までみたいなことはできない。そういうことだから」
彼氏ができた、の部分は嘘だけど。これまでのような関係を続けることはできないと感じていた。私の器がひび割れていて、どれだけ満たそうとしても零れ落ちて、永遠に渇いたままでいる。この関係に特別な名前をつけない限り、私が満たされることはない。
「なんで、何の相談もなく」
彼は傷付いたって顔をしている。私だってそうだった。貴方が志望校を変えたって人づてに聞いた時は。
「貴方だって相談も報告もしなかったじゃない。私は報告したわ」
「だからおばさんに言ったって言ったじゃん。直接言わなくて悪かったとは思ってるよ。大学が違ったって、家は隣のままだから今まで通りでいられただろ。なのに……」
ただ引き止められるだけでは、もう私の心は繋ぎ止められない。私自身にさえ。
「今まで通りでいるのにうんざりしたの。私は貴方じゃないし、貴方は私じゃない。一番近くても分かり合えない。分かってない。もう昔と一緒じゃない。だからもう、来ないで」
そう言って私は窓を閉めた。ベランダの向こうからは彼が何事かを言う声がしたが、放っておいたら次第に音は無くなった。部屋の中にはさざなみの音だけが満ちていた。
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