さざなみのはざま、しじま

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さざなみのはざま、しじま

 彼氏ができた。家を出て行く。貴方とはもう会えない。  そう告げた時の彼の顔ときたら、鳩が豆鉄砲を食ったような顔と言えばいいだろうか。そんな顔をしていた。  彼とは生まれた時からのお隣さんで、ベランダから互いの部屋を行き来できるような、絵に描いたような幼馴染だった。海に面した白い壁の家。両親のこだわりが詰まったお城。だけどその城を維持するために両親は共働きと言う選択を選んだ。共働きで家に居ない家族よりも、幼馴染の彼の方が一緒に過ごした時間が長い。  だから、彼と関係になるのも当然と言えば当然のことだった。思春期の好奇心を満たす異性が、家族よりも身近にいたのだから。想いが重なるよりも早く、肌を重ねた。海に面した側の窓からは、いつもさざなみの音がした。  そこに恋愛感情があったのかどうかは、分からない。  一度だけ聞いたことがある。私たちって、どういう関係? 彼は答えた。今までと何も変わらない。  生まれた時からのお隣さんで、家族よりも近くて、体を重ねただけで、友達でもなければ彼氏彼女でもない。俗に言うセフレと言うやつなのだろうけれど、友達ではないし、何よりが楽しい訳ではないから、その言葉を当て嵌めるのに違和感があった。  結局彼はその関係に名前を付けなかった。  いつまでも一緒に居るのが当たり前だと思っていた。だから衝撃的だった。彼の目指す大学が私と違っていたこと。予備校の夏期講習でクラスが一緒になった他校の女子と腕を組みながら出てきたこと。
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