暴動1日目 ふたりの出会い

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暴動1日目 ふたりの出会い

 随分走ったように思えたけれど、実は1ブロックも進んでいない。  周囲の混乱の最中にいるぼくは、かろうじて無事ではいるものの、行く道も方角も完全に見失っていた。  大通りを疾走する、数人の男たちの十数メートル後ろを走るぼくは、ふと目についた2つのビルの間の通路に飛び込んだ。  何か確証があったわけではない。この後どう行動するか、様子を見て決めようと思ったのだ。前を走っていた男たちはそのまま通りを駆けていった。  通路には誰もいなかった。一息つくことができたぼくは、通路を反対側の出口まで歩いて外の様子を見ようとした。そのとき目の前を数人の大男の集団が駆けて行き、慌てて身を隠すはめになった。  文字通り、一息つけただけだとわかっただけだ。そうしているうちに近くの建物から火の手が上がるのが見えた。窓ガラスを割って火炎ビンを投げ入れている連中がいる。  なんてことをと思うものの、多勢に無勢ではとても止められない。男たちは次々と建物のガラスを割ったり、クルマを破壊したりしてぼくのいるところに近づいてきた。  逃げようと思い走り出そうとしたぼくは、何かに引っ張られるように後ろを振り向いた。ぼくの目に映ったのは、ショートカットの金髪がよく似合う、まだ十代前半と思われる女の子だ。少女はぼくと目が合った瞬間に、大きな目をさらに見開いた。  その少女の後ろから、白いクルマがスピードを落とさず向かってくるのが見えたぼくは、反射的に少女の腕を掴んで引っ張り、そのまま背中から地面に倒れた。  直後にものすごい音と衝撃が走り、建物全体が揺れる。今の今まで少女がいた辺りの壁にクルマが突っ込んでいた。クルマの前部は大破し、ボンネットはめくれ上がっている。ドライバーがどうなっているのか、ここからはよく見えない。  少女は地面に座り込んだまま、両手で口を覆い、目を見開いている。  ぼくたちがいる目の前のビルに火炎ビンが投げつけられ、何本かはその場で、窓を破った何本かは建物の中で火の手を上げはじめた。ぼくは少女の肩をつかんで立ち上がらせようとした。 「痛い!」  少女は左の足首を押さえて、その場にうずくまってしまった。ぼくが引っ張ったときに足を挫いてしまったのかもしれない。  一瞬の躊躇の後、ぼくは少女の背中とひざ裏に手を回し、その身体を抱き上げて走り出した。少女は一瞬身体を固くしたが、状況がわかったのか降ろしてくれとは言わず、おとなしくしている。  置いていくわけにはいかなかった。理性を失い、暴徒と化した人々は、手当たり次第の破壊、暴力行為に及んでいるのだ。ここにこんな女の子を置いていけるわけがない。  そこまで思ってあることに気付いた。数十メートル走り、路地裏の人目につきにくい場所で立ち止まったぼくは、腕の中にいる少女に恐る恐る尋ねた。 「もしかして、だれかと一緒だった?」  少女はぼくの顔を見て首を横に振った。 「従兄のマイクとはぐれたの。でもどこにいるのかわからない。」 「マイク・・・どんな人? 歳格好は?」 「16歳の高校生。クルマで通りかかったときに襲われて、クルマを置いて逃げたの。ジーパンに上着は赤と青の縦シマ。ドジャースの帽子を被っている。あっ! さっき取っ組み合いになったとき脱げてしまったから、今は被っていないと思う。上着は目立つけれど見つけられなかったの。」 「わかった。探してみよう。マイクを見つけて安全なところへ行こう。それまではぼくと一緒だけどいいね?」  少女はうなずいた。無事でいるならマイクもこの子を探しているだろう。そう思い周囲の様子を確認してから、少女を抱いたままぼくは走りだした。
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