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ここがどこなのか確認しないと、どこに行けばいいのかもわからない。ぼくは人気のない路地裏で、リュックから取り出した地図を広げた。
日が大分傾いてきている。それでだいたいの方角は判断できるけれど、日没まであまり時間がないことも告げていた。時間は午後5時36分。ぼくはそばに降ろした少女の顔を見て言った。
「君はL市に住んでいるの? この辺りの土地勘はある?」
少女は首を横に振った。
「わたしはP・D市に住んでいるの。ここはクルマで通りかかっただけだからわからないわ。」
仕方がない。だいたいの方角はわかったから、警察署がある北東を目指して行くしかないようだ。
しばらく探したけれど、マイクは見つけられなかった。それにしても変だ。こんな大変なことになっているのに、警官の姿がまったく見えない。パトカーさえ見かけることがないなんて・・・そんなことを考えているうちに、ぼくは少女に見られていることに気付いた。
「ん? 大丈夫だよ。だいたいのところはわかったから、どう行けばいいのかの見当はついてる。」
「わたしの名前はキャッシー。あなたは?」
えっ? ああ! そうか。
「そうだったね。自己紹介もまだだった。ぼくは高科覚。日本人だよ。」
キャッシーは首を傾げながらぼくの顔をのぞき込んできた。
「サトル。がファーストネームね。わかったわ。わたしは13歳だけど、あなたは?」
「ぼくは21だよ。君から見れば8歳上だね。」
「そう? でもそんなに歳上って感じはしないわ。よろしくね。サトル。」
それはぼくが子どもっぽく見えるということか? 自覚はあるけれど、13歳の子に言われるとは思わなかった。キャッシーは言いたいことを言ったのか、前を向いて膝を抱えている。
よく見ると彼女は白い薄い長そでシャツしか着ていないことに気付いた。それに膝丈のこれも薄いデニム生地のスカート、足には薄いピンクのスニーカーをはいている。痛めてしまった足首の具合が気になった。
「足は、大丈夫?」
「うん。まだ痛むけど、サトルが運んでくれるから大丈夫。」
ますます置いていくわけにはいかなくなった。
「ごめん。ぼくが強引に引っ張ったから。」
キャッシーは首を横に振った。
「そんなことないよ。わたしのほうこそお礼を言わなきゃ。助けてくれて・・・ありがとう。」
キャッシーの頬が少し赤らんだように見えて、かわいいなとぼくは思った。僕のほうを向いたキャッシーと目が合う。
「サトルは、日本のどこから来たの?」
「え~と、京都は知っている? その京都の隣の滋賀というところからだよ。」
「シガ? わからないけれど、京都は知っているわ。日本の古都できれいな寺院がいっぱいあって、素敵な町なのでしょう? わたし日本大好き! 京都も行ってみたい!」
笑顔で話してくれた彼女を見て、ぼくはホッとした。
「来られるよ。君はまだ若いのだから、これからいくらでも機会はあるよ。」
「行けるかな? じゃあ日本語も勉強したほうがいいよね。日本語って、言葉が柔らかい感じがするから好き!」
ポジティブだなと思った。好きを連発する。頭も良さそうだ。
「君なら大丈夫だよ。大人になったらぜひ日本に来てね。もし機会があったら京都を案内するよ。」
そんな軽口を言ってみる。
「本当? うれしい! おばあちゃんも日本人だから、わたしは日本の人に縁があるみたい。そのときはよろしくね。サトル。
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