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「え? おばあちゃんが? それじゃあ日系なんだ。」
「そうよ。日系3世ってこと。わたしのところはパパとママと弟がいて、おばあちゃんを入れて5人家族なの。」
「そうなんだ。ぼくは両親に弟が1人の4人家族だよ。」
そんなふうに、笑顔も交えてお互いの身の上話をしていると、なんだかずっと前から知り合いだったような感覚になっていた。
いつもなら、あっさりと話を終わらせる方向に持っていくぼくが、相手の話を真剣に聞き上手に相づちを打ったりして、会話を途切れさせないようにしている。
不思議な子だと思った。ぼくたちは決して安全な状況にいるわけではないのに、心が和んでいる自分がいる。
だがその穏やかな時間は長くは続かなかった。
ドンッ! と何か爆発したような大きな音がして、話を途切れさせたキャッシーの顔がこわばった。続いていくつもの叫び声。悲鳴や騒ぎ声、何かをけしかけているような声も聞こえる。
静かに腰を上げたぼくは、路地の外の大通りの様子を見ようとゆっくり足を進め、建物の陰から外を見る。すると一筋先の角のビルの窓から、炎が勢いよく噴き出していた。
ガス爆発でもあったかのような激しい火災に、ぼくはたじろいでしまった。ビルの周囲には何人もの男たちがいて、火炎瓶を投げつけたり、窓を割ったりしている。瞬く間に他の建物からも火の手が上がった。
「すぐここを離れよう! 立てる?」
急いでキャッシーのところへ戻ってそう言った。うなずいたキャッシーは両手を着いて片足で立ち上がる。
おぶった方がいいかな? と思いリュックを身体の前にかけ背中を向けると、キャッシーはその身を預けてきた。
キャッシーを背負って立ち上がったぼくは、周囲に目をやってから注意深く路地裏を進んでいった。
日が暮れて気温が下がってきた。昼間は汗ばむほどだったから、この温度差はよけいに寒く感じる。キャッシーを背中に乗せて、ぼくは暴徒の群れから逃げるようにここまでやってきた。と言っても真っすぐ何事もなく来られたわけじゃあないから、たいした距離は稼げていない。
ここまでひとまずふたりが無事でいられているのは、幸運が重なってのことだった。
まずぼくがアジア人であることは大きいだろう。暴徒の主な攻撃対象は白人のようだ。その暴徒はぼくたちがいる地域から移動して、離れているように思えることが一つ。
二つ目は、13歳にしても小柄なキャッシーが、軽くてそれほど僕の負担になっていないことも助かっている。
とは言え飲まず食わずで歩きどおし、ときには全力疾走を強いられているのだから、かなり体力を消耗してはいた。
ようやく静かな、誰もいない区画に出ることができた。街灯はあるものの、そもそもの数が少ない。街全体が暗く真っ暗な路地もある。普段なら絶対に入って行きたくないところだけれど、今はその暗さと静けさがありがたくさえ感じた。
左腕の時計に目をやると午後8時半になっていた。ここら辺りで休んだ方がいいが、油断は禁物だ。慎重に路地の奥を見つめると、どうやら町工場の資材置き場の一角になっているようだということがわかった。入口が開けっ放しになっている。
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