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動くものがないか、物音がしないかを確かめるために、ゆっくりとその通路に足を踏み入れた。
手を伸ばすと届く位置にある、積み上げられている段ボールを1枚手に取ってみると、分厚くて意外にしっかりした重量のあるものだった。誰かがいれば何かの反応があると思い、それを通路の奥に向かって投げ入れる。
暗闇に吸い込まれた段ボールが壁にあたり地面に落ちる音が聞こえた。動くものもなければ何の音も聞こえない。ぼくは意を決して中に入ることにした。
2メートルも進むと光が全く入らない闇になる。左手で壁をさわり、右手の甲でキャッシーのお尻をもう一度しっかり持ち上げた。ぼくの肩から首に巻いているキャッシーの腕に力がこもるのがわかる。
資材置き場の横道を通り、通路の反対側の出口まで行き大通りの様子を見ると、静かで誰の姿もなかった。ぼくはここで休むことに決めた。
一旦資材置き場まで戻り、段ボールを数枚手に入れて地面に敷いた。1枚は壁に立てかけて背がもたれられるようにする。
そこでキャッシーを降ろし、今度は段ボールを箱状に組み立てていく。6個の箱を作りそれを通路に無造作に置いていった。
もし誰かが通路に入ってきたら、暗闇の中で段ボールのどれかに接触して、何らかの音が出ると思ったのだ。その間キャッシーは壁に手を当てて片足で立って待っていた。
「お待たせ。ここで休もう。」
最後に大きめの段ボール箱を2つ、目隠しと風よけのために置いて、ぼくは地面に敷いた段ボールの上に腰を降ろした。
ぼくの隣に座り、膝を抱えたキャッシーの寒そうな様子に気付く。彼女の軽装を見ればわかるはずなのにぼくは何をしているのだろう? 今日のぼくはTシャツの上に大柄のアウターを着ている。少しはこれで暖を取れるだろう。
「寒かった? これ貸してあげるよ。」
ぼくはそう言って上着を脱ぎ、キャッシーの肩にかけようとした。
「大丈夫。心配しないで。サトルだって中はTシャツだけでしょう? 私は大丈夫。」
キャッシーはそう言ったものの、両手で自分の身体を抱いているのを見て、放っておけるわけがない。
「ぼくは君をおぶって歩きどおしだったから、今は暑いくらいなんだ。クールダウンしているあいだ使っていいよ。」
そう言ってぼくは上着をキャッシーの肩に被せた。
「ありがとう。やさしいのね。サトル。」
キャッシーは身体にぼくの上着を巻きつけるようにした。少しは温まってくれるといいけれど。
そう思ってから大切なことを思い出したぼくは、リュックの前部のポケットのチャックを開けて手を入れた。
取り出したのはアパートから持ってきた板チョコだ。包装紙を破り、銀紙がついたまま半分に折ろうとして失敗した。まっすぐではなく斜めに折れてしまった板チョコは、割合にして6対4。
まあいいや。こういう場合は女の子に多い方をあげるものだろう。
「キャッシー。これしかないけれど、チョコレートあげるよ。」
キャッシーはすぐには受け取らなかった。そこでぼくは、自分の分のチョコをわざと音をたててかじり、おいしいと言ってから「食べていいよ。」と言った。
「ありがとう。」
キャッシーはチョコを受け取ってくれた。ふたりとも夕食を食べていないのだから、お腹が空いていてあたりまえだ。半分ほどはすぐに食べてしまった。
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