暴動1日目 ふたりの出会い

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 判決が言い渡された。  僕が瞬間的に見た腕時計の針は、午後4時45分を指していた。  91年3月3日。レイクビューテラス付近でスピード違反を犯したロドニー・Kは、L市警の警官たちに集団で引きずり出され暴行を受けた。  たまたま近隣住民がその様子をビデオカメラで撮影し、その映像が全米で報道され社会に衝撃を与えた事件だった。    起訴された4人の警察官に対し、陪審員は無罪評決を下した。証拠となるビデオ映像があったにもかかわらずだ。陪審員に黒人は1人もいなかった。  その瞬間に、店にいた1人の客が足元にビールジョッキを叩きつけた。ジョッキは粉々になって四散した。マグマは流れ出るどころではなく噴火したとぼくは思った。  店員が、店の中ではやめてくれ! と叫んだのが聞こえた。  店内にいた黒人たちは一斉に外に飛び出していく。殺気だった人々は道路上を走っていたクルマを急停止させ、乗っていた人を引きずり出して暴行を加えている。抑えに抑えていた怒りが爆発したのだ。  若者を中心にいままでどこにいたのかと思うほどの人が道路に溢れ、街は大混乱になってしまった。  これがのちにL市暴動92と呼ばれる、大事件のはじまりだったのだ。  周りの流れに巻き込まれるように店を飛び出したぼくの前に、顔を殴られた白人男性が倒れ込んできた。殴った大男はなおも執拗に暴行を加えていく。信じられない光景がいたるところで繰り広げられていた。  止めないとと、頭では思っても身体が動かない。そこに誰かがぶつかってきてぼくは地面に投げ出された。ぼくの横に細身の白人が倒れたと思うと、大男が馬乗りになり顔を殴りつけはじめた。  それ以上やったら殺してしまう! そう思ったが声が出ない。ぼくは振り上げられた大男の右腕に必死でしがみついてやめさせようとした。 「なんだぁ!? 貴様! 邪魔するな!」  男はものすごい勢いでぼくを振りほどこうとする。その力にぼくはあっさりと地面に転がされていた。殴られる人、投げ飛ばされる人が何人いるのか見当もつかない。  血走った目をした別の男が殴りかかってきたのを、身をひるがえしてかわしたぼくは走りだした。どっちに向かっているのかもわからない中を、ぼくは夢中で走り続けた。
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