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 ヤバいヤバいヤバい。「クリスマス」当日、僕は必死に走っていた。これは正直まずいかもしれない。完璧な「クリスマス」をプレゼントしたくて、「もう少しだけ」と欲張ったのが裏目に出た。日付が変わる前に帰れるかさえ怪しい。 「恩人殿、大変そうだな」 「あ、この間の! 元気にしてた?」  慌てる僕に声をかけてきたのは、先日助けた古代竜だ。 「ああ、()()()()()意趣返しをしてきたところだ。どれ、急いでいるのだろう。我が背に乗るが良い」 「え、いいの?」 「恩人殿以外を乗せる気はないがな」  そういえば、サンタクロースってトナカイのひくそりに乗って空を飛ぶんだったよね。竜に乗っているってことは、わりと「クリスマス」っぽさが高いってことかな?  竜はぐんぐんとスピードをあげていく。とはいえ、到着したのは夜も更けてから。デートどころの話ではなくなってしまった。 「着いたぞ。だが、本当にここで間違いないのか」 「うん、あってるはずなんだけど……」  村があったはずの場所は雪で覆い尽くされている。しかもあちこちに、灯りが漏れる巨大なドームが出来上がっていた。なんだ、これ? 「……やっと帰ってきた」 「え?」 「『クリスマス』デートするって言うから、ずっと待ってたのに!」  口をひん曲げて僕に抱きついてきたのは、メイちゃんだ。 「ごめん」 「『もう少しだけ』と思って寝ないで待っていたら、あっという間に雪が積もっちゃうし」  全部、僕のせいだ。『クリスマス』を楽しんでもらうどころか、悲しませることしかできなかった。 「……ごめん」 「違うの、謝ってほしいわけじゃなくて……。ごめんなさい。私が泣かないように頑張ってくれたんでしょ?」  やっぱりお見通しか。僕なんかがメイちゃんを幸せにしようなんて、おこがましいことなんだろうけど。 「メイちゃん、これから毎年……ううん一生、僕と『クリスマス』デートしてくれる?」 「告白すっ飛ばして、プロポーズがきた」 「ごめん」 「もう、また謝ってる。とりあえず、今日やるはずだったデートは、明日リベンジね!」  僕、ちゃんとメイちゃんを笑顔にできたのかな?  ちなみに、魔女(おばば)も「クリスマス」には色々あったみたいで、「クリスマスケーキ」という単語を出した途端に、「誰が女は24までだって? 25で半額、26で売れ残りなんていう奴は覚悟しな」と言って、フライパンを振り回し始めた。落ち着いて! おばばは、もう孫どころか、曾孫(ひまご)玄孫(やしゃご)もいるでしょ!  僕たちが結婚式をあげてから、しばらくあと。大雪が降る寒い冬の夜には、竜に乗った血まみれの騎士が、悪い子をさらいにやってくると言われるようになったらしい。 「まるで、『なまはげ』みたいだね!」 「それ誉めてる?」 「包丁を持ってくるからびっくりするけど、教育的指導にぴったりだよ」 「サンタクロース要素はどこに?」 「まあ、一部には『ブラックサンタ』っていう子どもたちに恐れられている存在もいるみたいだし」 「ここに来て、また新情報!」  結局「クリスマス」のことはよくわからないままだけれど、大事なひとと一緒に過ごせることは何より幸せなんだって思う。  竜やら何やらに囲まれてちょっぴり賑やかになったこの村で、メイちゃんがずっと笑顔でいてくれたらいいな。  すべてのひとがどうぞ優しい気持ちになれますように。  メリークリスマス!
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