13人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
(6)
――「クリスマス」まで、残り3日――
断崖絶壁の崖は、風が強い。冬イチゴ、生きるか死ぬかの場所に生えるのやめてくれない? まあメイちゃんなら、大喜びで謎の名探偵と犯人ごっこをするんだろうけどさ。
『やっぱり「クリスマス」にはケーキよ。それもイチゴのケーキね!』
『へえ、メイちゃんの住んでいたところでは冬にイチゴが採れるんだね』
『いいえ、採れないわ。だからこの時期のイチゴは死ぬほど強気価格なのよ……』
『それ、イチゴじゃなきゃダメなの?』
『わかっているのよ、商業主義に乗せられているんだって。でも!』
わかるよ、メイちゃん。だってそのケーキは、メイちゃんにとって思い出の味なんだよね。だから僕もね、頑張るから。
――「クリスマス」まで、残り2日――
今日は、ケーキの土台に必要な黄金の小麦を集めてみた。
『家族と一緒にね、「クリスマスケーキ」を作ったことがあるの』
『メイちゃん、ケーキも作れるんだ。すごいね』
『ううん、初めてだったからスポンジが全然膨らまなかったのに、お父さんってば一生懸命食べてくれて。その夜、お腹を壊しちゃったの。本当にバカだよね』
メイちゃんが笑いながら、ちょっとだけ泣いていたのを僕は知っている。気がきいた言葉なんて用意できないから、代わりに素敵なものをたくさん準備するよ。
――「クリスマス」まで、残り1日――
僕は知ってるんだ。メイちゃんが本当はすごく寂しがりやだって。メイちゃんが、たぶん元の国に戻れないことも僕は知っている。
「クリスマス」の話をするときに、いつも怒ってみせるのは、泣きたいのを我慢しているからなんだよね。
だってどんなにひとりぼっちのクリスマスの話をしていても、最後には楽しかった家族の話になってるもん。
ねえ、メイちゃん。僕じゃダメかな。僕と一緒にいるだけじゃ、寂しいのはなくならないかな。
手の中の小さな箱を、ぎゅっと握りしめる。これだけは、僕の村もメイちゃんの国でも変わらないらしいプレゼント。
遅くなって本当にごめん。もう少しだけ、待っていてくれる?
最初のコメントを投稿しよう!