15人が本棚に入れています
本棚に追加
(7)
ヤバいヤバいヤバい。「クリスマス」当日、僕は必死に走っていた。これは正直まずいかもしれない。完璧な「クリスマス」をプレゼントしたくて、「もう少しだけ」と欲張ったのが裏目に出た。日付が変わる前に帰れるかさえ怪しい。
「恩人殿、大変そうだな」
「あ、この間の! 元気にしてた?」
慌てる僕に声をかけてきたのは、先日助けた古代竜だ。
「ああ、少しばかり意趣返しをしてきたところだ。どれ、急いでいるのだろう。我が背に乗るが良い」
「え、いいの?」
「恩人殿以外を乗せる気はないがな」
そういえば、サンタクロースってトナカイのひくそりに乗って空を飛ぶんだったよね。竜に乗っているってことは、わりと「クリスマス」っぽさが高いってことかな?
竜はぐんぐんとスピードをあげていく。とはいえ、到着したのは夜も更けてから。デートどころの話ではなくなってしまった。
「着いたぞ。だが、本当にここで間違いないのか」
「うん、あってるはずなんだけど……」
村があったはずの場所は雪で覆い尽くされている。しかもあちこちに、灯りが漏れる巨大なドームが出来上がっていた。なんだ、これ?
「……やっと帰ってきた」
「え?」
「『クリスマス』デートするって言うから、ずっと待ってたのに!」
口をひん曲げて僕に抱きついてきたのは、メイちゃんだ。
「ごめん」
「『もう少しだけ』と思って寝ないで待っていたら、あっという間に雪が積もっちゃうし」
全部、僕のせいだ。『クリスマス』を楽しんでもらうどころか、悲しませることしかできなかった。
「……ごめん」
「違うの、謝ってほしいわけじゃなくて……。ごめんなさい。私が泣かないように頑張ってくれたんでしょ?」
やっぱりお見通しか。僕なんかがメイちゃんを幸せにしようなんて、おこがましいことなんだろうけど。
「メイちゃん、これから毎年……ううん一生、僕と『クリスマス』デートしてくれる?」
「告白すっ飛ばして、プロポーズがきた」
「ごめん」
「もう、また謝ってる。とりあえず、今日やるはずだったデートは、明日リベンジね!」
僕、ちゃんとメイちゃんを笑顔にできたのかな?
ちなみに、魔女も「クリスマス」には色々あったみたいで、「クリスマスケーキ」という単語を出した途端に、「誰が女は24までだって? 25で半額、26で売れ残りなんていう奴は覚悟しな」と言って、フライパンを振り回し始めた。落ち着いて! おばばは、もう孫どころか、曾孫も玄孫もいるでしょ!
僕たちが結婚式をあげてから、しばらくあと。大雪が降る寒い冬の夜には、竜に乗った血まみれの騎士が、悪い子をさらいにやってくると言われるようになったらしい。
「まるで、『なまはげ』みたいだね!」
「それ誉めてる?」
「包丁を持ってくるからびっくりするけど、教育的指導にぴったりだよ」
「サンタクロース要素はどこに?」
「まあ、一部には『ブラックサンタ』っていう子どもたちに恐れられている存在もいるみたいだし」
「ここに来て、また新情報!」
結局「クリスマス」のことはよくわからないままだけれど、大事なひとと一緒に過ごせることは何より幸せなんだって思う。
竜やら何やらに囲まれてちょっぴり賑やかになったこの村で、メイちゃんがずっと笑顔でいてくれたらいいな。
すべてのひとがどうぞ優しい気持ちになれますように。
メリークリスマス!
最初のコメントを投稿しよう!