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僕が目を丸くすると、
「以前から、君は普通ではないと思っていたが、実際にイスの偉大なる種族と話をしてみてようやくわかった」
「ど、どういう意味です!?」
吉柳の能面のような顔を見る。
無表情なところが確かに坪井の妻加奈に似ている。
「その通りです、警視殿。あなたほどの慧眼のお方が三年もわたしの正体に気づかなかったのは遺憾としか言いようがありません」
「私にも目が曇ることはあるのさ。さすがに目をかけていた部下が最初から怪物であるとは思いもよらなかったということかな」
「そうですね。わたしもこれで人間との精神交換は二度目ですからうまく誤魔化す術を身に着けていたといえます。それに警視殿は、わたしという個体には何の興味も持ち合わせてはいなかったではありませんか」
吉柳は自分が警視の指摘通りの化け物だと認めてしまった。
誤魔化す気はなくて、問われたから答えたという感じだ。
最初から隠しきるつもりはまるでなかったのかもしれない。
だが……
「この人は三年前からの警視の部下なんじゃあ……」
三年前から務めているのに異常に気付かなかったというのか。
「前々から、私に対する受付嬢やら本庁の刑事の態度がおかしいと思っていたのだ。私程人畜無害な人間はいないはずなのに、まるで化け物でもみるように扱われる。その理由もはっきりしたな。吉柳、君は私の知らないところで、イスの偉大なる種族らしい不遜な態度をとって我が管理室の評判を落としていたな。わざとか?」
「―――いいえ、警視殿。わたしはわたしなりに接していただけのことです。警視殿の評判を落とす意図はありませんでした」
「君が優秀にして取り組む仕事がすべて完璧なのは理解している」
「おかしいですよ、警視! だって、この人はもうずっと前からあなたの配下に……!!」
こいつがイスの偉大なる種族とかなら、なんで今日、僕たちが坪井邸で仲間たちを追い払ったのを見逃がしたのだ!?
「簡単さ。イスの偉大なる種族は時間を超越した種族だといっただろう。だから、こいつらにとっては時間軸というものは関係ないのさ。なあ、吉柳」
「ご理解されたのですか? さすがは警視殿です」
「おまえは三年前に、私の様子を探るために私の傍にくるだろう人間の心と入れ替わった。それでいいのだな」
「はい。ですが、わたしがこの肉体との交換をしたとき、この肉体の精神はすでに傷つき擦れていました。理由はわかりませんが。故にわたしとの精神交換は相互に良好な関係のもとで行われました。おかげで三年間も絶好の位置から警視殿を観察し続けることができました」
認めるのか。
自分が精神だけは人間ではなく化け物であるということを。
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