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中に入ると、
「おかえりなさい、警視」
二十代半ばほどの男性が出迎えてくれた。
とはいっても何やら書類を山ほど抱えて仕事中だったようだ。
(この人が降三世警視の唯一の部下か……)
能面のようなポーカーフェイス。
浅黒いのではなくて、褐色といってもいい肌は健康的な雰囲気を醸し出している。
逆に目つきは涼やかで紳士のようであった。
髪も短く整えられていて、寝癖全開の上司とはまったく人種が違う感じだ。
こちらもいい意味で警察官らしくない。
なんと身長180センチの警視よりもわずかに大きいし。
「久遠君、私の部下の吉柳鳶彦だ。こちらは、私の所轄の友人で久遠久君だ」
やっぱり友達認定されていたよ……
ショックのあまり死にそうだ。
ただ、紹介された吉柳は僕にはあまり興味がなさそうだった。
こちらを一瞥しただけで、すぐ仕事に戻ろうとする。
「吉柳はね。三年前に私のところに配属されたんだ。それ以来、私の部下としてこの管理室の整理と資料集めのための出張を主にやっていてもらっている。私は事件以外で東京から出る気はないからね」
「旅行とかは嫌いって言ってましたね。まったく公僕の自覚がないのも考え物です」
警視は、管理室内を見渡し、
「ごらんよ、よく整理整頓されているだろう。吉柳が来る前は雑然としていてとてもじゃないが資料もまともに取り出せない状態だった」
「へえ」
三年もこんな人の元で仕事していたのも凄いが、この広くてわけわかんない場所の整理をやっていたのは彼なのか。
それだけで有能な人だということはわかる。
ただ、随分と不愛想だけど。
「じゃあ、降三世警視。僕をここまで連れてきて何をさせるつもりだったのですか?」
「いや、君が、という訳じゃない。君はただの付き添いだ。私の目的はね―――吉柳」
「なんでしょう、警視」
降三世警視は吉柳をさりげなく見て、
「ようやく、君の正体がわかったよ、吉柳。君はイスの偉大なる種族だったんだな」
と、言った。
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