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第四話 球形密室事件
事件が発生したのは、隅田川に近い一軒家だった。
朝、署に出勤してから、昨日までの書類を片づけているだけの手持ち無沙汰な時間が一段落ついたときに通報がなった。
強行犯係の全員に聞こえるアナウンスが、「○×町二丁目5番地29の一軒家において男性の遺体が発見されました。刑事課強行犯係は直ちに現場に急行せよ。繰り返す……」と伝える。
僕たちは殺人・強盗・誘拐などの凶悪犯罪である強行犯を相手にする強行犯係に所属する刑事だ。
僕と藤山さんは佐原先輩の運転で現場へと向かった。
現場の住所については先輩が管内を熟知していたこともあり、迷うことなく到着した。
まったく渋滞していなかったからサイレンはなしだ。
サイレンを鳴らしながら進むと刑事になったという実感があるからとても気持ちいいが、一般市民を無意味に脅かしてしまうこともあり、あまり使わないようにと指導されている。
現場はそれなりに高い塀に囲まれた一軒家。
すでに門の前に機捜のパトカーと応援のためにかけつけた巡回の自転車が複数停車している。
KEEPOUTを乗り越えて、知り合いの巡査たちに挨拶をしつつ内部に入る。
西洋風の門の内部は殺風景な庭と、白い壁の平屋の一軒家があった。
もともとは通常の感覚でいう庭らしいものがあったようだが、随分と放置されていたのか荒れ果てている。
ただ、普通の荒れ果て方と違うのは、数少ない木々が枯れ果てて、雑草の類いはほとんど見られない、まさに荒野のような様相だということだ。
六月の季節らしい新緑の瑞々しさなどは本当に隅っこにしか見られない。
少なくともこの家に住んでいる人間はこんな寂寥たる光景を毎日目にしてもたいして気にはならない程度の感性の持ち主だということである。
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