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「えっと、田中によると細貝がこの家を購入した五年前に改築した、寝室とは違うプライベートルームのことらしいです」
「趣味の部屋ってことか」
「……うーん、あれを趣味といってしまっていいのか。とにかく、実際に御覧になってくださればわかります。そうとしか言えません」
巡査は歯にものがはさまったような物言いをした。
よっぽど説明しづらいものなのだろうか。
僕は少しだけ気になった。
と、同時にいやーな予感がした。
こういうあまり一般的ではない反応を相手が示した場合はたいていろくなことがいないのだ。
僕はよく知っている。
例えば、全身丸焦げの死体が見つかったときとか、ゴミ屋敷の中にどうやってかわからない死体が放置されたときとか、わけのわからない精神疾患をもった人殺しが起きたときとか、そんな過去の経験が教えてくれる。
「こちらへどうぞ。……梅崎に案内されて、自分は〈例の部屋〉の前に行きました。ここです」
かなり広い家の中の一番奥の部屋の戸の前へと案内された。
途中で被害者のものらしい書斎の前を通ったが、ドアが開け放たれていて中が見渡せる。
本棚があり、背表紙が漢字だらけの本が詰め込まれている。装丁の具合からして漢籍の書物ではないかと思った。
おかげで、僕はこの時点ではまだ細貝のことを中国関係の学者か何かと考えていた。
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