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「細貝の死因は?」
「ざっと見たところ、首を鋭い刃物のようなもので刺されて即死したものと思われます。凶器らしいものは見当たりません。自分でつけることはおそらく不可能でしょう」
「自殺の線はなしか。死後はどのぐらいだ?」
「正確にはわかりませんが、鑑識の見立てでは昨日の深夜から明け方にかけてだと思います(あとで午前三時から四時だろうとわかった)」
「で、裸のまま、シーツらしいものにくるまってここに引きこもっていた理由は?」
鑑識作業も終わり、そろそろ運び出されようとしている遺体を見下ろした。
遺体は全裸だった。
部屋の中央辺りにかなり肌触りの良さそうな毛布が何枚もくしゃくしゃになっていて、その真ん中に遺体はあった。
服らしいものはないので、どうやらこの〈例の部屋〉では裸でいるのがデフォらしいことがわかる。
毛布の他には水の入ったガラスの瓶らしいものがかなりの数転がっていて、他にも乾パンのような非常食めいたものが大量に並べてある。
一言でいうのならば、核シェルターのようだ。
ちなみに空調はよく効いていて、丸い空気穴のようなものもいたるところにある。
石膏のおかげで全体的に白すぎて落ち着かないが、何日間もこもっていられるだけの設備はあるように思えた。
さらに隅のところにはどうやら水洗トイレらしい陶器が備え付けられていて、どことなく刑務所の独居房チックではある。
ただ便器らしいものも通常とは違って、何やら丸まっこい変な形状をしていた。
細貝の死体からでた血で毛布などは汚れていたので、白い室内のそこだけが無残に黒ずんでいるように思える。
「ただ、自殺でないとするとおかしくなります。このけったいな部屋に出入りするためにはそこの楕円形の扉しかなくて、しかもこの扉には鍵がかかってました。あと、この石膏も」
佐原先輩が跪いて、扉の周辺に散らばっていた石膏の塊のようなものを拾い上げる。
部屋自体が広いのであまり感じないが、相当な量の塊が同様に散らばっていた。大小遍在して足の踏み場もないぐらいだ。
扉と枠の隙間にもダマのようにこびりついている。
先輩はさらにケチャップを入れるケースのようなものをとりだして、中を見せる。
ぬめっとした粘土質のものがこめられていた。
「石膏と接着剤を合わせたものみたいです。内部からこれを扉の隙間に流し込んで固めていたようですね。もともとぴったりとした隙間なのにさらにそれを埋めてしまおうとするみたいにです。わかりやすくいうと、目張りですか。なんていうかガス自殺の現場にいる感じですよ」
あと、扉の周りに空になったガラス瓶が転がっている。いくつか罅も入っている。
これが巡査と梅崎が扉を開けたときに聞こえたという音の原因だろう。
おもいっきり扉を開けてこれにぶつかれば相当うるさい。
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