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「それと、この鍵です」
まだ証拠品としては押収されていない、鑑識用の丸で囲まれた床に落ちている小さい物体を指でつついた。
防犯用の補助錠のようだ。
扉そのものには開閉用の把手がついているが、これには鍵穴らしいものがないので、鍵と言えるものはこれだけなのだろう。
ドアとドア枠の間に平行になった板を差しこんで、捩子をひねることでドアとドア枠を固定するタイプの品物だ。
ほんのわずかに立て付けを悪くすることでドアの開閉を妨げる仕組みにするというものである。
本来なら窓に使うものだけど、どうも細貝は把手に鍵がないことからこれで代用していたようだ。
鍵としてはどうにも実用的ではないが、自分の家につけるとしたら普通かもしれない。
ただし、広い家屋のこんな部屋に引きこもっている人間にとって鍵なんて必要なのかどうかは不明である。
「これと、石膏が隙間に埋まっていたことから、扉が開きづらくなっていたようです」
「それを無理矢理破ってはいったらガイシャが殺されていた、と。―――なあ、改めて確認するが、本当にドラマにあるような密室ってことでいいのか」
「状況だけを見るとですけどね、藤山さん」
藤山さんは腕を組んだ。
そう、これがわりと厄介なのだ。
完全に他殺と思わしき死体が、けったいな中身の部屋で鍵のかかっていた部屋で発見された。
つまりはよくフィクションでいわれるところの密室殺人事件だ。
聞いたところでは現実の警察でもたまに遭遇するらしい。
どう考えてもおかしい状況で殺された死体。
もっとも、密室自体はさほど厄介なものではない。なぜなら―――
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