第四話 球形密室事件

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「……密室となると、弁護側がそこをついてくるぞ。物理的に不可能な事件をどうして被告人が可能ならしめたのかってよ」 「そうですよね。以前、警視庁の強行犯係(どうぎょうしゃ)に聞いたんですが、アリバイとか密室工作って裁判の過程で一番突かれやすいんですって。不可能ならざる事件をどうして起こしえたのか、とか言われて。で、議論の余地なく説明できないとそこを中心的に騒ぎ立てて、見込み捜査だとかいって刑事訴訟法的に叩くらしいっすね」 「違法捜査ってことですか」 「ああ、それが嫌で裁判で証拠隠しなんかしても、もしもバレたら今度はそっちを突いてくる。下手すれば完全に無罪となってしまうんだ。そこらであぶねえんだよ、密室殺人ってやつはよ」 「というと、どうして密室になったかなんてことは……」 「関係ねえな。名探偵でも呼べば推理してくれンだろ」  ―――と、まあミステリー好きには夢も希望もない結論だが、現場でこの手の事件に遭遇した刑事にとって、密室殺人なんてこんなものなのである。  ちょっとした不可能状況があっても、犯人が特定できて、自白が採取れれば問題はないのだ。  ただし、刑事裁判の過程で問題が噴出する。  特に裁判員裁判になってからは、この手の知識が豊富なミステリー好きが裁判員にいるとこの辺りが説明できないのは警察による冤罪だと主張することがあるので本当に面倒なことになる。  だから、できたらやりたくない事件なのだ。  レストレイド警部や轟警部の気持ちがわかろうというものである。  あと、ちょっと前のことだが、とある事件を素人の名探偵が解決したということがあったのだが、これの裁判のときに弁護側が「警察関係者以外が事件捜査にかかわっていたことは捜査指揮権を逸脱した行為であり、また任意捜査の逸脱でもある」と主張したためにだいぶ複雑になったことがあったそうだ。  なんというか、現実には推理小説の爽快さは欠片もないのである。 「―――仕方ねぇ。密室とやらの謎は後回しだ。俺たちの仕事は、ガイシャの関係を洗って犯人らしいのを見つけ出せばいい」 「捜査本部の卓は立つんですかねえ」 「係長は立てたがっていたけど、こればっかりは本庁の管理官の考えることだ。まあ、密室殺人だということになればたいていは本部ができるよ。検察からも裁判を見すえた捜査を要求されるからな」 「担当はヤバ姫さまですか」 「そうなるだろうさ」  そうして、僕らは新しい事件を抱えることになる。  しかも謎に塗れていそうな怪事件の臭いがぷんぷんしてきて厭な予感が止まらないという……
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