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「……ですからあ、細貝社長は飲むたびに言ってたんですよ、俺は奴らに狙われているって」
「そこはわかった。だから、何から狙われてたのか、とこっちは聞いてんだ。細貝を殺したがってたのは誰かってことをよ」
「さあ、社長は犬みてえにしつけえ連中だとは言ってたけど名前や素性までは教えてもらえなかったから……」
「じゃあ、どうして狙われてたかのかってのはどうだ? 殺すほどの理由なんて、そんなにないだろう」
「強引な人だっだけど、恨まれるほどじゃあねえとは思う。仕事の指示もイミフなのは多いけど、後で考えたらさすが社長だなって感じのものおおかったし。俺らへの給料の払いも太っ腹だったし」
「ところで、おまえ、前にどこぞのプロレスの興業に関わっていたらしいじゃねえか。ヤクザと繋がりあんじゃねえのか」
「―――な、なんのことだよ!?」
藤山さんがLLCフューチャー・ワークスの従業員の田中司を絞りあげていた。
今朝の細貝匡史殺人事件のあとで関係者の素性を簡単に洗い出したら、この田中についてもと八百長プロレスで反社会的組織の関与を疑われた興業会社に勤めていた事実が判明したのだ。
警察は前科のあるものと反社会的組織の関係者には厳しい。
田中と梅崎の二人は社長宅の合鍵も持たされていたことから、追及もことのほか厳しいものになった。
一時間ほど追及されたのち、次は例の問題について質問された。
「おまえらのいう〈例の部屋〉だけど、なんで細貝が殺されたとき密室になっていたかわかるか? わかるんなら、教えろよ。密室殺人事件なんだぞ、密室殺人事件」
「知りませんよ。第一、社長は〈例の部屋〉にこもることがきまったら二三日は絶対に出てこないって俺らもわかっているし」
「じゃあ、どうして今日に限って無理矢理に扉を開けようとしたんだよ。ガイシャは殺されるかもしれねえって怯えてんだろ。それを引き摺り出す気だったのか」
「違いますって。普段なら、社長は閉じこもっても外から声をかければ返事はくれたんですよ。スマホとかは持ち込まないから電話もメールもLINEも通じねえけど、壁越しに口で仕事の指示はくれたんだ。だのに、今日に限ってまったく返事はしないし―――」
「しないし、なんだよ」
「いつもなら、こもるってことになったら、それなりに合図みたいなのはくれたんだけど今回は何もなかったから……」
「そりゃあ、忘れてたか、急いでたんだろ」
「そうかなあ」
田中の方は半グレっぽさと察しの悪さが同居しているようなタイプで嘘をついているのならば相当な演技派に思えた。
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