第一話 焼魚事件

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 手袋をはめた手で皮膚に触れる。  筋肉は凝固し、硬直していた。全身は黒白まだらだが、焼けている部分はみっちりと炭化していた。  毛髪は例外なく焼け落ち、眼球は膨張して飛び出している。  じっと観察していると、そのうちになんだか妙な違和感を覚えてきて、僕は首をひねった。  「ちょっと変な顔つきしているよな、このホトケさん」  ベテランの藤山さんがぽつりと呟いた。  そちらに目をやると僕同様になんらかの違和感を覚えているらしい。 「…ああ、妙におでこが狭くて前に突き出しているし鼻が低いから、なんか変な顔に見えるんじゃないですか」  二つ上の佐原先輩が指摘する。  言われた通りに屍体の顔を見ると、焼け爛れていることを差し引いたとしても、確かに見慣れた通常の顔つきとは異なる変な容貌だったらしいことがわかった。  はっきりとはいえないけど、被害者の生前は絶対にイケメンとは言えない風貌だったのだろう。  だからといって、殺害された被害者への畏敬の念が揺るぐことはないけど…… 「死因は頭部への鈍器の一撃でしょうね」 「結構何度もやられているな。見てみろ。頭部でも、特にここだけ酷く、ベシャっといっているだろ。念入りにトドメを刺された感じだ」 「口の中が焼けていないから、死んだあと焼かれたみたいです。あと、焼いたのはガソリンでしょうね。さっきからこの辺りにはガソリンの刺激臭がしますから」  先輩たちが次々と屍体からわかる情報を提示していく。  それぞれわかりきっていることだと思うが、わざわざ口にすることで情報を共有していくことで互いに確認をしているのだ。  まだ半年ほどの付き合いでしかないが、この先輩たちのプロ精神は尊敬できるものである。
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