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僕が視線を向けると、立ち入り禁止の黄色と黒のロープをまたいだ姿勢で一人の青年が突っ立っていた。
しかも、なんだかわからないけど、オーケストラの指揮者みたいに両腕をぐわっと広げて空を睨んでいる。
くんくんと、鼻を鳴らしているのが物凄く奇妙だ。
服装は高級そうなコートと三つ揃いのスーツを見事に着こなし、若手の実業家みたいで、こんな殺人現場には似つかわしくない感じだった。
多分、ブランドはバーバリーだと思う。
あと、驚いたのはその顔立ちだ。
やたらとイケメンなのだ。
叶姉妹風に言うと「グッドルッキングボーイズ」。
すらりと通った高い鼻梁、切れ長の目、柳のような眉、意志の強そうな唇、残念なのはボサボサの髪の毛だけという完璧な美青年だった。
ただ、そんなのが機捜の刑事に腕を引っ張られて、苦情を言われても微動だにせず立ち尽くし、何やらぶつぶつつぶやいている姿は異様としか言い様がない。
「……この人、どうしたの?」
「知らん。いきなり、ここに来て、俺たちの制止も聞かずに中に入ろうとしたくせに、『ま、まさか、そういうことなのか!』とか訳のわからん叫び声を上げて動かなくなっちまったんだ。おまえさんのところの刑事か?」
「うちの署の人じゃないよ」
「一課の管理官かな?」
「―――それはないでしょ」
警視庁の捜査一課から刑事が来る場合として、初動捜査で犯人逮捕に結びつかなかったときや、僕らみたいな所轄だけで捜査するのは難しいと判断されたときなので、まだ殺人と確認されただけの今の段階で呼ばれることはまずない。
それに、この青年はどう見ても僕と同い年か少し上ぐらいなので、一課の管理官としては若すぎる。
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