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一週間ぶりぐらいに訪れた坪井邸は静まり返っていた。
もともと坪井の妻加奈しか住んでいない上、大きな庭もある屋敷なので人の気配がしないというのもあるが。
インターフォンを鳴らすと、坪井加奈が出た。
『はい』
「○×署の久遠です。ご無沙汰しております」
『……何の御用でしょう?』
やはり警戒されている。
とはいえ、降三世警視の命令に逆らうこともできないので乗り気ではないが、面会を要請することにした。
奥さんは少し間をあけてから遠隔操作で扉を開けてくれた。
「行きましょう」
「そうだね」
案内されたのは、なんと洋二郎と美鳥が殺害された居間だった。
すでに完全に片づけられて事件の痕跡すら残ってはいないが、無言の拒絶を受けている気がする。
僕たちにコーヒーも出そうとせず、坪井加奈はソファーの対面に座った。
冷たい表情をしている。非人間的なぐらいに。
「……いったい何の御用でしょうか。わたしの主人は人殺しの罪で起訴されたそうですが、それについてのお話ですか」
「えっと、実は……」
何て説明しようかと口を開きかけたとき、やはりというかじっとしていられいな変人が横から口を挟んできた。
さっきまでは黙っていてくれたのが不思議なくらいだ。
どうも坪井加奈をじっと観察していたようだけど。
「君が、坪井巳一郎の細君か?」
「……そうですが。坪井加奈と申します。あなたは随分と不躾な方ですわね」
「そうか、それはすまない。私は降三世明という、警視庁の警視だ。桜田門では信仰問題管理室の室長をしている。この部署に聞き覚えはないかい?」
「―――? いいえ」
「残念だ。もう少し世間に認知されていてもいいと思っていたのだが」
いやあ、警視庁の恥部というか、厄介者ですからできたら周知されない方がいいと思いますよ、あんたのところは。
ただ、坪井加奈に対してこの口の利き方はちょっと意外だった。
もう少し礼儀正しい人だったはずだから。
「さて、単刀直入に言おうか。……とっととその肉体から出ていき、本当の奥さんの精神をもどしたまえ。こちらとしては、そちらの調査作業をいつまでも野放しにするつもりはないのだ。言っていることがわからないとは言わせないよ」
警視の言っていることは僕には理解できなかった。
果たして、坪井加奈も似たような顔を……していなかった。
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