43人が本棚に入れています
本棚に追加
これまで通りに無表情のままだ。
それでも声だけは動揺しているように震えていた。
「あの……刑事さんが何を言っているのか……?」
「そうですよ、警視。あなたが何をおっしゃっているのか、僕にもわかりません。説明してください」
「わからないはずがないだろう。君らは〈偉大なる種族〉などという御大層な呼び名をつけられている知的種族だろうに。もう、これ以上、私の眼は誤魔化せないし、そちらの真意もおおよそのところは把握している。だから、最悪の事態に陥る前に私の提案に従った方がましだと思うがね。どうだい?」
横から眼を見てみた。
間違いなく冗談を言っているものではない。
真剣に物事に挑んでいるときの、降三世警視の鋭い眼差しだった。
つまりは彼の言っていることは事実なのだろう。
多少のけれんやひっかけはあるだろうが、この眼の時の彼は本当に信用できる。
僕は経験則上、よく知っているのだ。
「偉大なる種族って、さっき話していたものですか」
「ああ、イースという惑星からこの地球に飛来した精神体種族のことさ。はたして、時系列にそって話すのならば、現在から遥か未来からこいつらはこの時代に干渉してきているはずだ。そして、この女はその未来にいるはずの種族のものであり、精神だけでここにやってきているのだ」
僕は坪井の奥さんを見た。
どうみても外見はただの人間だ。
ちょっとぼうっとしているところもあると思うが、僕には普通の人間にしか見えない。
しかし、違うというのか。
降三世警視の言っていることが事実ならば、この人は人間ではない。
さっきやっていた警視の恋ダンスもどきはその入れ替わりを揶揄していたということなのか?
「―――わたしは……」
「いや、結構。しらばっくれるというのならね。だから、これから私と久遠君との会話を聞いていてくれればいい。それに間違っているところがあったらどんどん指摘してくれ。少なくとも、私は君の下手な誤魔化しや茶番に付き合う気はない。どんなはぐらかし方をするかを聞いて見たいところだが、おそらく時間の無駄だろう。さて、どうだい、久遠君。私に質問はあるかな?」
「……最初から、といいたいところですけれど」
おかしいとは思っていたのだ。
降三世警視は警察官の身分は有しているが、警察官ではない。
むしろ、学者やその類だ。
それが僕の事件に意見を述べるだけならばともかく、こんなに協力的になってくれるはずがなかった。
以前の事件でもわかっていたはずなのに。
しかし、いつも通りの狂った直観力と推理力を発揮して、自分の得意分野に属するものだと嗅ぎ取ってついてきただけなのだ。
また、また……
この事件も彼の領分の事件なのか。
―――なんとかいう神話についての……
最初のコメントを投稿しよう!