第三話 別人事件

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 へっ、金?  人の精神を乗っ取るような怪物が金のため?  理解できない。 「これを見たまえ」  警視が自分のタブレットに表示したデータを見せる。  人や法人の名前のリストがあった。  横に万単位の数字がある。 「なんですか、これ」 「この女が定期的に金融機関から振り込んでいる相手と金額さ。さっき、私だけが使える特殊なルートで調べてもらった。これを見る限り、この女は100万を越えない額を定期的に同じ連中に振り込んでいる。そのことを坪井に知られたくなかったんだろう」  びくりと妻が動いた。  どうやら核心だったらしい。 「……図星だったようだね。残念なことに、こちらには人手が足りないからこのリストの連中すべてを今すぐに取り押さえることはできない。だが、我々からすると、市井の人間に紛れ込んだ異物―――君たちの種族のグループを確保・把握することができるという、またとない好機なんだ」 「関係……ない」 「そのはずはないな。この振込先、確実に坪井にも君の前歴にもなんの関係もないものたちのはずだ。繋がっていることさえ疑問を感じざる得ないほどにね。学生もいれば、非正規労働者もいる、女子プロゴルファーというのもいる。果たして、彼らに君が定期的に大金を供給する必要性なんて誰が見てもないだろう」 「……そいつらはなにものなんですか?」 「この女と同じ、イスの偉大なる種族が入れ替わった者たちさ。ただし、こいつらは人間とは違う生き物だから、まともな生活費を稼ぎだすことが期待できないから、資産家の妻という裕福な地位にあったこの女が資金源となって援助していたということだ。それがなければ餓死もありうるだろうからね」  まさか、この表には口座が二十個はあるぞ。  そんなにいるというのか、化け物と精神をすり替えられた人が。
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