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「イスの偉大なる種族はね、とても知的な連中で、様々な時代や場所の知識を得るため、そこに住む知的生命体の中で最もふさわしい相手と一時的な精神交換をおこなうのさ。精神交換を強制された相手は大いなる種族の体に閉じ込められ、研究対象として情報・知識の提供を求められるという。かつてから、彼らによる調査が進められているという報告は各時代、各地からされている。ちなみに我が国において、ここまで大規模な調査が行われているということは私が知る限りでも初めてだね。これはいい研究資料になる」
人の精神を無理矢理にのっとって人間のことを調べる化け物……
そんなものが遥か未来に巣食っているというのか!?
過去にあたる僕たちの時代を調べようとしているのか!?
「洋二郎と美鳥の二人は、もともと兄貴の結婚相手のことを疑っていたのだろう。かなりの歳の差結婚だからね。遺産目当てじゃないかと。そこで両親の遺産の行方もあって秘密裏に調べていたら、義理の姉となる加奈が定期的に少なくない額をこうやって、無意味にばら撒いていることに気が付いた。まさか、人間と精神を入れ替えた怪物たちの活動資金なんて夢にも思わない。洋二郎と美鳥は闇社会のマネロンとかそのあたりではないかと推測を巡らせたんだ。……だから、兄の巳一郎と別れさせようとした。だが、この坪井加奈(仮)としては坪井と別れさせられたら、仲間たちの活動資金がなくなってしまう。それは避けたい。そこで、夫の頭に細工をした」
「カプグラ症候群……に」
「いや、それではない。単に、実の弟妹が別人に見え、言っていることがおかしく聞こえる程度のものだろう。他人の精神を乗っ取るイスの偉大なる種族にとっては朝飯前の作業だったろうな。そうして、巳一郎は弟妹を別人だと思い、殺してしまった。その際に、殺意の面でも加奈が何かをした可能性も捨てきれないがね」
警視の説明の間中、女の無表情は変わらない。
「君が自供せずとも、私はすぐに動かせる人間を使ってこのリストの洗い出しをする。君らがたとえうまく逃れたとしても、イスの偉大なる種族が人間を探ろうとするケースのデータが集められることになって私たちとしては御の字だしね。さあ、どうするね。さっさとそこから出て、仲間たちに危機が迫っていることを告げるかい? それとも……」
すると、坪井の妻はようやく顔を上げた。
「信仰問題管理室の降三世警視と言ったわね」
「そうだ。それが私の名だ」
「わたしの名前を聞きたいの?」
「ぜひとも」
女は唇をねじ曲がらせ、
「∇◎◇EEEEESXAWQFT―――よ」
と、言った。
僕は思わず耳を塞いで、屈みこんで嘔吐しそうになった。
寿命を奪われたような気分だった。
隣に座っている警視は逆に眼を爛々と輝かせて、耳孔から血が流れているのさえ気にはしていないようだ。
そして、僕は目の前の女が間違いなく人の心を乗っ取った怪物だと理解した。
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