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だが、その刹那。再び俺は頭上から襲撃は受けた。
ひらひらと白い反物が現れたかと思うと、瞬く間に俺にからみつき空に連れ去られてしまう。
「隊長っ!」
ナグワーのそんな叫び声を聞くだけで精いっぱいだった。
俺は上下も左右もまるで分からないままに無抵抗で舞い上げられていく。そんな中でも習性と言うか、癖と言うのは恐ろしいもので、今も尚まとわりついている布状のウィアードの分析をしていた。というか、分析も何もあったものじゃない。反物が舞い降りて人にからみつく妖怪など、日本人なら妖怪に詳しくなくとも答えられる。
「『一反木綿』だな!」
一反木綿はどんどんと高度を上げていく。このままじゃマズい。
俺は反撃と助けを呼ぶ意味で、全身の体毛を雷獣に貸与する。そして一反木綿に巻き付かれながら思い切り放電した。悲鳴に似たよく分からない声が空に響く。一反木綿も声を出すのか。
その時、奇声の中にあって心地よい鈴の様な声が聞こえてきた。
「ヲルカ君!」
「サーシャ!」
突然の稲光にすぐさまサーシャが異変に気が付いて駆けつけてくれたのだ。俺はすぐさま身をよじって隙間を作り、今度は鎌鼬の鎌を右手の人差し指に貸与した。小さくても切れ味は抜群だ。すぐに俺を支えておけるだけの力を失った一反木綿は逃げるように巻き付きを解除した。
タイミングよくサーシャに救助された俺は屋根の上に優しく降ろされる。そしてすぐに互いに状況を報告し合った。
「ナグワーが下で野衾ってウィアードに襲われている。みんなを呼んで助けないと」
「それが…タネモネさんとハヴァさんもウィアードと交戦中です」
「なんだって!?」
「事前に伺っていた話を考慮すれば、タネモネさんは山乳地、ハヴァさんは風狸というウィアードに襲われているのではないかと」
「ぐぅ…」
見れば確かにラトネッカリからもらっていた発煙筒の煙が二本上がっている。同時多発的に襲われるのは流石に想定外すぎる。もう頭がこんがらがって適切な判断ができない。俺がリーダーなんだからしっかりしないといけないのに…!
「と、とにかく一番近くにいるナグワーから助けに…」
などと蚊のなくような声で呟いた。だが混乱の最中、更に追い打ちをかけることが起こった。ダメージを追いながらも一反木綿がこちらに向かって引き返してきて、サーシャに襲い掛かってきたのだ。
意表を突かれつつもサーシャは翼を広げ、空中戦に転じた。剣を抜いているものの、基本的に彼女たちはウィアードに対して防戦しか取れないんだ、俺がなんとかしないと。それはサーシャも分かっている。だが一反木綿の方が空中での小回りが利くのか、中々俺に近づくことを許してもらえない。
「ヲルカ君、私は大丈夫です! 他の三人をっ」
「わ、分かった!」
確かに防戦一方だがサーシャの防御力は折り紙付きだ。見たところ一反木綿も攪乱以上の事は出来ていない。しばらくの時間稼ぎは任せても問題なさそうだ。
それにしても、事前に想定していたウィアードが四体も出てくるなんて…。
俺はゴーグルの端に手を添えた。ラトネッカリから事前に聞いていた話によれば、ここのメモリを調節すれば望遠機能を使えるはず…。
「見えた」
サーシャの報告通り三人が三者三様のウィアードと対峙している
てか、すごいなこれ…暗視機能まであるのか。街灯の光は当然ながら地上の道路を照らすためのもので、俺がいる建物の屋根の上は月と星以外に灯りは乏しい。肉眼では精々屋根の輪郭を把握するくらいなのに、ゴーグルを付けていれば昼間と遜色ないほどに視界が確保できている。
俺は四人の戦況を見て、改めて判断した。サーシャ、タネモネ、ハヴァの三人はうまい具合に空中戦に持ち込んでいる。あの三人ならおいそれとやられることはないだろう。ともすれば一番問題なのは…ナグワーだ。
彼女だけは本来の姿に戻ることも許されず、しかもヱデンキア人を庇いながら戦っているせいで一番の不利を強いられている。それにナグワーを自由にし、ドラゴンの姿に戻ってもらえれば心強い。やはり今回の仕事は空中戦がカギを握るのは明白だ。俺を乗せて飛んでもらわないと。
そう意気込んだ時、俺は唐突に後ろから襲撃された。背中に尋常ではない衝撃を受け、振り返る。すると同じような衝撃が手足、腹、胸へと次々に当たる。そこにはムササビのような小柄な動物型のウィアードがへばりついていた。最後に顔面をムササビに襲われたところで大きく体制を崩してしまう。
顔にへばりついたそれの隙間から、俺は自分に攻撃を仕掛けて何者かの正体を見た。
―――しまった。
徒党を組んで襲ってきているというのに、何でミグ地区に現れたウィアードが四体だけだと思い込んでいたんだ? 事前に五体ものウィアードを想定してきて、その内の四体が現れたのだから最後のもう一体もいて然るべきと考えるべきだった。
そんな後悔の念と悲鳴を置き去りに、屋根の上から真っ逆さまに落ちていく。最後に見たのはしたり顔で屋根から飛び立つ『野鉄砲』の姿だった。
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