祝と呪

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「谷川君が来たんだね。よかった、全員ここにおいで」 地下からもれてくる咲の言葉を聞いた瑚珠が、悲鳴に近い声を上げた。 「ばあちゃん!今から私たちデートなんだよ!?」 「悪かった。でも力を貸しておくれ。非常事態だ」 咲が人に助けを求めることなどめったにない。 登はほとんど飛び降りるように地下への階段を下りてゆく。 「谷川君、本当にごめん!巻き込んじゃった……」 瑚珠のしおらしい態度など、まず見られるものではない。 「全然。僕が行って役に立つのかなあ?」 谷川の口調には緊張感のかけらもない。 「咲ばあちゃんが全員って言ったもの。無駄なことは絶対にしない人なんだ。それにあの部屋は本気で危ないモノしかなくて……」 「そりゃ楽しみ!」 谷川が嬉しそうに声を弾ませたので、瑚珠は目を見開いた。 山田家では文字に重きを置くが、谷川の家は言葉を操ることを得意とする。 谷川がいつも能天気なのは、言葉が持つ力を良く知っているからだ。 「さ、行こう、瑚珠ちゃん」 いつもと変わらない谷川の様子に、瑚珠は感謝した。 谷川の巨体を支えきれず、華奢な階段がぎしぎしと(きし)んだ。 地下に降り立った瑚珠が思い切り眉をひそめた。 「何だろ、空気まで歪んでよどんでるなんて……」 「そうかな?地下ってこんなものじゃない?」 けろりと言い放った谷川は、落ち着いていると言うよりはうきうきしているようにさえ見える。 「ううん……いつもは咲ばあちゃんが浄化してくれてたんだな……。今はきっとそんな余裕もないんだ……えいっ」 瑚珠は、進まない自分の足を叱咤した。 「おいで」 差し出してくれた谷川の手を取るのを、瑚珠はためらった。 瑚珠が、触れた人の心の一部を読める占い師だと言うことも、谷川は知っている。 谷川はその大きな手で、瑚珠の手をそっと包んだ。 その手は、寒い夜なのに熱いほどだった。 「いやあ、どのくらい力入れていい?こんなちっちゃい手、取れちゃいそうで」 言葉も心の中もまったく変わらない色気のない谷川に、瑚珠は救われた気がした。 「そーっとだよ。もげたら困るから」 乾いた自分の言葉を、瑚珠はとてももどかしく感じた。 2364873e-6b9a-49f3-b8b2-9c44ee76cd26
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