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咲と登は、呑気に年越しの蕎麦の準備を始めた。
「ばあちゃん、何であんなもん地下なんかに押しこんでたのさ」
「大事なモノだからね。何の悪意もないモノなのに、ここに置くには危険すぎる代物だから地下に保管していたんだ。言ったように、祝と呪は紙一重だよ。谷川家の先々代は色々と大変な人だったと聞いている」
「あいつもかな?」
「谷川君はあの通り穏やかだね。だけど持っている力はその先々代に匹敵するよ。瑚珠が好きな人がいますって連れてきて、その人が谷川と名乗った時には驚いたけどね」
「誰かに勧められたとかじゃなく知り合ったのか?」
「人から押しつけられたことを受け入れる子じゃないからね、瑚珠は。わかってるだろう?」
「ああ……。それにしてもばあちゃんがあんな呼び方するから本気で身構えたぞ?谷川を試す気だった?」
「そんなことはしないよ。本当に私だけではあの場を保つのがしんどかった。ああ、試したとしたら瑚珠だね。私や登がいれば、あれだけの力を持っているくせに手を抜くからね、あの子は。いつでも私たちがいるわけじゃない。そんな時に何が起こってもいいように備えないと……」
ちょうどその時、地下で大きな力が動いた。
「瑚珠!」
咲が年齢を感じさせない動きで身をひるがえした。
登が追うのが精一杯だったから、とんでもない速さだ。
地下にたどり着くと、瑚珠が咲をじっとりとにらんだ。
「ばあちゃん……これ」
瑚珠の横で、谷川がにこにこ笑いながら掲げた塊を見て、咲が息を呑んだ。
「『宵闇の大桜』……祓ったのかい、それを……」
「ごめん、ばあちゃん。鎮めるのは無理だった」
瑚珠は哀しげに目を伏せている。
「いや、私が悪かったんだよ。二人とも無事でよかった。古いモノとはいえ、あの封印が破られるとは思っていなかった」
「大桜って何だ?」
登がきょとんとした顔で尋ねたので、咲は眉をひそめた。
「登にももう少しここのモノを理解してもらわないといけないね。この地下にあるモノは決して外に出してはならない。鎮められるならいいが、それが無理なら全力で止めなさい」
「何があろうと命がけで、だよ」
瑚珠がこともなげに言い切った。
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