あとちょっとだけ

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あとちょっとだけ

「あともう少しだけ頑張ろう。ね?」  すっかりカーディガンが手放せない肌寒い冬の午後、進路面談室で担当生徒の高橋(たかはし)えりかさんと向き合っていた。  入学した頃はボブだった茶色い髪はセーターの胸元まで伸び、こちらを向いたつむじは染められずに黒い。伏せられた目元がじわじわ潤んでいく。 「……もう少しだけ、って」  ああ、これは泣くかも。構えた瞬間、上目遣いに捕われた。  ブースのパーテーション向こう、周りもせっせと年内最後の面談で騒がしく、高橋さんの返事は紛れて消えてしまいそう。 「花田(はなだ)チューター。充分、頑張っているつもりなんです、私」  涙を浮かべた下まぶたを震わせる。 「でも、これ以上、頑張れってことですか?」 「い、いや、高橋さんは充分頑張っているよ! 夏前の模試と比べて、英文法設問の得点が安定しているし」 「そんなの!」  食ってかかるようにテーブルに上半身を乗り出したものの、言葉の先は凋んでいく。ふわふわに膨らんだ綿あめが、翌朝には凋むように。 「高橋さんはずっと頑張っているよ。焦らずに、この調子で大丈夫」 「もう少し……って、あと、どれくらいですか?  ……もう少しなんて、私もう、頑張れないです……!」
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