そして走る

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 ここ何日も雨が降っていない。校庭は砂埃が舞い上がって小さなつむじ風を作る。深井実乃(ふかいみの)は憂鬱な気分で体育教師の言うことを聞いていた。実乃だけじゃない。二年三組の全員が整列して体格の良い田中先生の言葉を受け止めている。 「いいかー。まずグラウンドを一周してから学校の周りのコースを走るんだ。コースはこれからゆっくり走って説明するからみんな付いてこい。三キロだからそう時間の掛かる距離じゃないだろう」  三キロも実乃は走ったことがない。中学生になるとマラソン大会があると聞いていたけどみんなどれくらいのペースで走るのだろう。小学校のときは五分間マラソンというのが月曜日の朝にあってみんな早いペースでグラウンドを走った。運動神経のない実乃は月曜日の朝が嫌いだった。  この中学校は駅から離れた田舎にある。南の正門側に土手を含めた横幅四メートルくらいの川があり、東側と北側は田んぼと畑だ。西側にはぽつりぽつり家がある。  教師が説明するコースはグラウンドを一周して西門に出て北側に周り田んぼや畑の中にある道を走り、正門から北側にある裏門と学校の周りを一周する長いコースだった。実乃は時々立ち止まりながら道順を覚えたがそれだけでも疲れた。教師は言う。 「二年生全体が行うマラソン大会まで二週間ある。マラソン大会は十二月の第二月曜日だからな。それまで体育の時間はコースを走る練習だ。このクラスは次は木曜日が授業だったな。体調を整えておくように」  実乃はため息をついて隣にいる西城保奈美(さいじょうほなみ)を見た。保奈美も嫌そうな顔をしている。
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