甘い朝

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それから滞りなく5時間目が終わり、また榎本がやってきた。 「茅野だけどさ、昼来て佐野がいなかったからまた放課後来るって言ってたぞ。だからすぐ帰るなよ」 そしてまた席に帰っていった。 何それ。僕、待ってなきゃいけないの?なんでまた来るんだろう?もう用ないのに。 そんなことを思いながら6時間目も終え、帰りのホームルームも終わって帰っちゃおうかと立ち上がったら、すかさず榎本に止められた。 「帰るなよ。茅野来るって言ったろ?」 そう言ったって掃除の邪魔だし・・・と思ったら教室がにわかにざわついた。入口を見ると女の子が僕を見ている。 「ほら、茅野来たぞ。行ってやれよ」 そう言って榎本に背中を押されるけど、あれが茅野?実はぶつかった時にたまたまそばにいた皓ちゃんに抱えられてすぐに保健室に行ったから、僕は彼女を見ていない。 確かに可愛い・・・かな? いまいち可愛いの基準が分からないけど、可愛くないことは無いので可愛いのだろう。そんな茅野の元に行くと、周りがさらにざわついた。 なにこれ? めんどくさい。 「え・・・と・・・ここじゃちょっと・・・。私についてきて貰っていい?」 茅野も居心地が悪いのだろう。そう言って歩き出したけど、僕的にはここでも良かった。だって早く茅野から離れて帰りたかったんだもん。でも僕の返事なんて待たないままどんどん茅野が進んで行ってしまうので、僕は彼女について行くしか無かった。 どこに行くのか、茅野は黙ったまま前を歩いて僕を振り返りもしない。そもそもなんで僕のところに来たんだろう?そんなことを思いながらついて行くと、あまり人気のない校舎裏に着いた。 「あの・・・佐野くん。今日はぶつかってごめんなさい」 足を止めて僕に向かい合うと、茅野は突然そう言って頭を下げた。だから僕は慌てて首を振る。 「いや・・・そんな謝らなくてもいいから。わざとじゃないし、しょうがないよ」 こんな所まで呼び出されて謝られても困るよ。 「もういいから頭を上げて。僕気にしてないから。大丈夫だから、ね?」 本当はたんこぶができた上に皓ちゃんに軽くおしおきされちゃったけど、こんな改まって謝られるほどじゃない。 なのに茅野は肩を震わせて、上げた顔は今にも泣きそうだった。 えぇ?なんで? 僕のせい? 女の子に泣かれるなんてこと今まで無かったので、内心すごく焦った。 お願いだから泣かないでぇ。 「本当に大丈夫だから、気にしないでっ」 僕はそう言って逃げるようにその場を去りたかったけど、失敗した。茅野に腕を思い切り掴まれてしまったから・・・。 「違うの。佐野くんにぶつかったのわざとなの」 掴まれた腕をどうしようかと思案していた僕は、茅野の言葉に驚いた。 「わざと?」 あれ、わざとぶつかったの? なんで? 訳が分からず茅野を見ると、茅野は下を向きながら掴んでる手に力を入れた。 痛い・・・。 でもそこはぐっと我慢。 「なんでわざと僕にぶつかったの?」 僕は極力優しく言った。すると茅野は手をそのままに、視線を上げて僕の目を見る。 今にも零れそうな涙に、僕はいたたまれない。
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