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「私・・・佐野くんとお話がしたかったの。初めて見た時から佐野くんが好きで、だけどクラスが違うから全然話すチャンスがなくて・・・。そんな時に後藤さんが佐野くんに告白するって聞いて、それで私、どうしても佐野くんを取られたくなくて、後藤さんが佐野くんに告白する前に知り合いになりたかったの」
突然予想もしてなかった話をされて、僕は少しパニくる。
茅野は僕が好き?
後藤って誰?
「本当は軽くぶつかるはずだったの。だけど私緊張してしまって・・・。まさか佐野くんがあんなに激しく倒れるなんて思いもしなかったの。本当にごめんなさい」
いきなり不意をつかれて体当たりされたんだから、それは仕方がないと思う。まあ、受け身も何も取れなくて頭をしたたかに打っちゃったのは情けないけど・・・。
「だけど、私の方が先に佐野くんを好きになったのに、ついこの間まで違う人と付き合ってた後藤さんに横取りされると思うと、悔しくてっ」
さっきまで潤んでいた目がきっとつり上がる。
なんか怖い・・・。
だけど、僕は茅野の言葉に引っかかる。
「悔しいの?」
「悔しいというか、絶対に嫌。好きな人が他の人と一緒にいるなんて、絶対に許せない」
好きな人が自分と違う人といるのは嫌なんだ。
「佐野くんっ」
僕が茅野の言葉に考えこんでいると、突然大きな声で名前を呼ばれた。
「な、なに?」
その勢いにちょっと僕は後退るけど、まだ腕を掴まれたままだ。
「私、佐野くんが好きなの。私と付き合ってください」
顔を強ばらせ、僕の腕を掴む手が震えている。茅野の真剣さがその姿から伝わってくる。
ああ僕のこと、本当に好きでいてくれてるんだ。
その姿は健気でキレイだった。
だから僕も、真剣に思いを伝えた。
「ごめん。僕は茅野のこと、そういう風には思ってないんだ。それに僕・・・」
皓ちゃんの顔が浮かぶ。
「付き合ってる人がいるんだ。だからごめんね」
そう言うと、茅野の目から大粒の涙が零れた。そして茅野は僕の腕を離し、その涙を拭う。
「私の方こそごめんなさい。突然ぶつかって、突然告白して・・・。でもちゃんと答えてくれてありがとう」
そうして笑った彼女は、本当に可愛かった。
「茅野も、僕を好きになってくれてありがとう」
僕も笑ってそう言うと、その場から離れた。
皓ちゃんに会いたい。
茅野と話して、僕は無性に皓ちゃんに会いたくなった。
お昼にあんな事したの、僕が茅野とぶつかったからだよね?それって、僕が女の子と触れたのが許せなかったからなの?
帰るために昇降口に向かう生徒に逆らって、僕は化学準備室に向かう。
皓ちゃんは僕を好きなの?
僕のこと好きだから、お昼は意地悪だったの?
本館を抜け、南館に入って3階の端、化学準備室まであと少しというところでそのドアが開いた。僕は咄嗟に隣の実験室に身を隠す。だって出てきたのが養護の先生だったから。
なんで養護の先生が化学準備室から出てくるの?
養護の先生・・・いわゆる保健室の先生は今年来たばかりの若い女の先生だ。可愛くてスタイルが良くて、保健室を訪れる生徒が増えたと聞いた。
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