甘い朝

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鼻から入る皓ちゃんの匂いは、僕が知る一番安心する匂いだった。 本当に女の匂いがしない・・・。 「でも・・・この部屋女の人臭い」 皓ちゃんからしなくても、この部屋は甘い匂いが漂っている。 「もしかして、さっき坂本先生が来たからその匂いが残ってるのかもしれない」 坂本先生・・・養護の先生だ。 「こんな辺鄙なところまでわざわざ来るなんて・・・何しに来たんだよ」 当の化学の先生だって滅多に来ないのに、なんにも関係ない養護の先生が来るなんてありえない。 今まで休み時間にはここに来てたけど、僕は放課後には来たことがなかった。皓ちゃんとは秘密の関係だし、いつもは大抵友達と帰っていたから。今日はたまたま茅野に呼び出されて先に教室を出たけど・・・。 もしかしたらいつも、放課後に坂本先生がここに来ていたのかもしれない。 そう思ったら、僕の目から自然と涙が零れた。 「何しに・・・て、忘れ物を届けに来てくれたんだ」 そう言って胸ポケットに刺してあったペンを取り出した。 それは皓ちゃんの就職が決まった時におじさんが贈ってくれたもので、確かすごく高い万年筆だ。 「奈津を保健室に運んだ時に落としたみたいで、それを見つけた坂本先生が今日保健室に来た先生たちに聞いて回ってくれたらしいんだ。高いものだから、きっと落としたのは先生じゃないかって。オレが最後だったらしくて、違かったら明日生徒にも聞きに行こうと思ってたってさ」 そう言ってまたポケットにペンを戻した皓ちゃんは、なぜか嬉しそうに僕の顔を覗き込む。 「奈津はなんで、こんなに怒って泣いてるんだ?」 涙はすぐに止まったけど、まだ頬が濡れている。 僕は慌てて手で頬を拭いた。 「オレが坂本先生とここで抱き合ってると思って、焼きもちを焼いたのかな?」 すごく嬉しそうにそう言う皓ちゃんだけど、僕だって自分に何が起こったのか分からない。 これって焼きもちなの? その時、さっき話した茅野の言葉を思い出した。 『悔しいというか、絶対に嫌。好きな人が他の人と一緒にいるなんて、絶対に許せない』 皓ちゃんと坂本先生がここで会っていたと思った時、僕の中にすごく嫌な思いが湧き起こった。 『絶対にそんなの嫌だ!』 その感情は茅野の言う思いなのだろうか?だったら僕は、皓ちゃんのこと・・・。 そう思っていたら、急に皓ちゃんに顎を取られて上を向かされた。 「奈津」 じっと目を見つめられて名前を呼ばれる。その目を見て僕は認めた。 「そうだよ。僕以外の人に触らないで」 僕はそういう意味で皓ちゃんが好きなんだ。だから僕以外の誰かが皓ちゃんのそばにいるのは嫌だし、触るなんてもっと嫌。 嫌なのに、皓ちゃんはすごく嬉しそうに僕をなおも見る。 「なに?僕怒ってるんだけど」 ここに女の人が来て皓ちゃんと二人っきりで話したのが嫌で仕方がない。 忘れ物を届けに来たんなら、何もわざわざ中に入れることないじゃん。ドア越しに話せば良くない?こんなとこ、誰も来ないんだから。 僕は怒って皓ちゃんを睨んでるのに、皓ちゃんは相変わらず目を細めて嬉しそうにしてる。そしていきなりムギュっと抱きしめてきた。 「可愛いな、奈津」 な、なんなの? 「こんなに怒った奈津、初めて見たよ。奈津はそんなにオレが好きなのか」 「なっ何言ってんの?!」
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