ジャン・マックナイト

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やはり電線をショートさせてしまおうか。 そう考えたとき、サムが得意気な顔で叫んだ。 「あったっ!! この人が手に握ってるっ!!」 サムは女性の拳を両手でぎゅっ、と握りしめた。 「はい。ちゃんと開けて下さいね。じゃないと悪いばい菌がいっぱいになりますよ」 ジャンは苦笑しながら歩み寄った。 その台詞はいつも歯科医院でマリー・スプリング医師がサムに言い含める口調そのものなのだ。 サムの声が届いたのか、女性の拳が(ほど)け、鍵が零れ落ちた。 「いい子ですね。ぐっすり休んで下さいね」 ジャンは笑みを堪え、鍵を受け取り、女性のところまで戻るとその体をそっと抱き上げた。 車の前ではすでにボウがドアを開けて待っていた。 「厄介事ですね」 「ああ。だがサム以上に厄介なものなんてないだろう」 それが間違いだと気付かされるのはもう少し後のことだった。
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