リョウ・ニッタ

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カイルは運転手(ドライバー)をよこす、と言ってくれたのだが、これまでのことでリョウは警戒心と猜疑心が高くなっていた。 『今の私はひとりの方がいいの』 電話でそう断ったときの声は自分でも酷かったと思う。 あの時は、これ以上差別的な発言を耳にしたくなかったのだ、とまでは言いたくなかった。 だが、カイルは察したようで、素直に提案を引っ込めた。 『君がそう言うのなら仕方ないな。だが、くれぐれも用心してくれよ』 リョウ・ニッタ・アームストロングは日本人だが、アメリカに移住し、とある公的機関に通訳として雇われている。 こちらで結婚はしたが、夫は事故で亡くなったため、アームストロング姓は使っていない。 使うと必ず夫の話題になり、亡くなったと告げてお悔やみを貰うのも、それに応じるのも億劫だった。 だが今度はそうすると、ただこちらへ来た日本人の通訳、ということになり、加えて女性であるということから、謂われなき発言や扱いを受けたことも少なくない。 インドに派遣された際もアメリカに貢献する日本人、と奇異の目で見られた上、一緒に行った同僚はいわゆる男性優位主義者でリョウの頭痛の種となった。
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