Nanase #1:二十一世紀の

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 例えばそれは、指先から小さな炎を出すだけであったり。  もしくは液体を凍らせるだけ、とか。人によっては液体に限らず……気体まで氷漬けにできる人だって存在する。  もっとも……そんな危険な能力を持って生まれるような人は、精神鑑定を受けたあとに入院になるかどうか判断される。  ま、当然ってカンジ。人を殺せるような能力に加えて、精神に問題がある人間を野放しにはできないワケだから。  過激な能力を持っている殆どの人は、良い給料を貰って国で働いている。  〝高い給料あげるから暴れないでね〟ってコトなんだと思うケドさ。まあでも……それで世の中回っているんならイイのかな。どうだろ。  とにかく、最悪なモンは最悪な訳です。  私みたいに出産時や幼児期に能力が確認されないような〝右利き〟の患者は、それからずうっと月に一度くらいのペースで、能力が判明するまで定期検査が続く。 〝隠してもムダだぞ〟ってコトだ。ずうっとこの先、オマエの心臓が右にある限りは検査を続けるんだからなって……そういうコト。  それでも私は、今までなんとか隠し通してきた。普通の、普通の……生活を送るために。 「内臓は嘘をつかない」女性刑事は冷たい声を車内に充満させる。「しかし、貴女がそう証言をなさっている以上言及はしませんが」  言及はしないとか言っているけれど、私を家から強制的に連れ出している今……私は理解している。  絶対にこの人たちは、私の能力を知っているんだ。  そうじゃなきゃ、こんなに強引にできないもの。私の秘密をついに知った上で、きっと書類上の質問として訊ねてきていただけ。 「お……っと!」  運転手の男が発した僅かな驚きの声と共に、ブレーキ。 「が──ッ!」  私の体はブレーキの反動で前のめりになって、助手席のシートに思い切り前歯をぶつける。ちょうどそこには飲み物を置いておけるドリンクホルダーがあって、私はその角に狙いをすましたかのように、前歯を強打してしまった。  血の味がする。折れてないかな、歯。 「どうしたの?」  鈴森さんと呼ばれた女性の刑事は私の怪我なんてどうでもイイってカンジで、というかそもそも……隣に座っている女子高生が前歯から血を流しているコトすらも気づいていない様子で、運転手に状況を訊ねた。 「人が……」運転手はなぜだか、動揺を隠しきれない様子で言葉を紡ぐ。「なんだ……? この女」  気になって私も前方を覗き込んだ。前歯を両手で抑えながら、舌に鉄の味を感じながら……座席を越えて視線は……車外へ。  フロントガラスをすり抜けて、ボンネットの向こうに見えるのは、一人の女性。  すぐ隣の車線には、停車したこの車を見兼ねた車両たちがせっせと追い越して通り抜けて行く。  クラクション。  ピイーッと甲高く鳴ったそれは、運転手が痺れを切らしてか……もしくは恐れをなして威嚇した音だった。  それでも、女性は動かない。 「酔っ払ってるんでしょうか」  運転手は鈴森刑事に訊ねるような声色で呟くが、刑事さんからの返事はなかった。  酔っ払いには見えない。  とっても派手な、ピンク色の髪をした人。  そして、今。  彼女は右手を後ろに回して、何かを取り出した。 「あれは……」思わず、私は血まみれの唇で口走る。「ピンク色の」  ──拳銃?
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