39人が本棚に入れています
本棚に追加
メイド服……では、ないんだろうけれど。でもフリルがところどころについた西洋のメイドさんみたいな、そんな格好。
背後からクラクションが鳴った。停車しているここ車へ怒りをぶつけてきている。
隣には追い越し車がアクセルを踏みつけるような加速で通り過ぎて行く。エンジン音を響かせて、乱暴にストレスを抱えて、駆け抜けて行く。
どこからか……横断歩道が青になった際になる点滅音も聴こえて。
そして、都会の雑音の中に──。
「あ」
銃声が響いた。
桃色の銃口が火を噴いた。まるで過程がカットされてしまったかのように、一瞬にしてフロントガラスにヒビが入った。
指が一本入りそうな大きさの丸い穴があいて、そこからヒビが蜘蛛の巣のように放射線状にギザギザと広がって伸びている。
運転手が頭をがくりと落として、ハンドルへ頭蓋骨をぶつけた。
クラクション。運転手の頭がクラクションを押しっぱなしにして、大きく大きく……警笛の音が周囲に鳴り続ける。
「伏せて!」
思い切り頭を鷲掴みにされて、私は刑事さんに首を押し込まれた。
俯かされて、唇の隙間から血とヨダレの混ざった薄赤色の唾液が下へと落ち、私の靴の甲に垂れる。
「あ……の」俯いたまま、私は彼女に訊ねる。「な、何が」
「黙って。貴女は絶対にここから動くな」
強い命令口調で、私をその場その姿勢で張り付けにするように彼女は言い放った。
横目に動かす。
腰のホルスターから銃を引き抜いた彼女は、亀のように首を引っ込めたまま車のドアを開けて、外へと脱出する。
中腰に……相手の射線に決して入らぬよう注意を払いながら。
銃声。
窓が割れた。刑事さんが出て行って盾のように開けっ放しにしているドアのガラスを銃弾が撃ち抜いて、まるでガラスが一瞬で砂に変えられてしまったかにように……粉々に砕けて散る。
刑事さんはどこへ行ったのか、車の後ろにでも回って隠れているのか、私からはもう見えない。
そして突然。
クラクションが鳴り止んだ。
最初のコメントを投稿しよう!