side 来宮×椎名

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side 来宮×椎名

【来宮eyes】 「帰ってこねーなぁ……」  隣で腕時計を見ながら独り言ちる高遠につられて俺も自身の腕時計を確認した。  就職祝いとして河野さんが買ってくれたかなり良いお値段の腕時計が、二人が消えてから結構な時間が経つことを知らせてくれた。 「確かに。長いですね」  しーなは実行委員の方々に指示を与えつつパーティーの後始末をしているんですけど、あのヒトやっぱりポテンシャルは高いですね。  見た目と言動が幼いイメージを与えるから皆さんなんとなく勘違いというか、思い違いをしてしまうらしいですけど基本スペックはかなり高いんですよあのヒト。いきなり物事を振ったり、パニックにさせさえしなければ今みたいにテキパキと現場を回してしまう。  そりゃあの若さで准教授なんかやってんですもん。優秀脳ミソに決まってんですけど、ちょっと抜けてるところがあるのがまた大変愛らしいんですよねぇ。 「本番突入してねーだろーな」 「それは無いでしょう」 「お?言い切ったな」 「はい。初町さんの今までの行動パターンに照らし合わせて考えれば、これから戻らなくてはならない事情があるのに致す。ということは有り得ませんので」 「そんなもんわかりたくねーよ!」 「まぁ……それには全面的に同感ですね」  初町さんは暴走型ではありますが、頭はかなりキレるおヒトなので。特に、河野さんの不利益に繋がる事柄に対しては天才的に物事を進めていきますからね。河野さんについては絶対的に、完璧に、傷をつけないように。先程のはイレギュラー中のイレギュラーでしょう。  どうせ、いつ鍵を渡そうか考えてたのがダダ漏れたとかそんなしょうもないことでしょうよ。  恐ろしい事にあの暴走族(ヒト)(たと)え自身の抑えが効かなくなりました的な時でも河野さんの負担やらその後の処理、帰宅ルートや手段、更には翌日の予定までもを考慮してオールグリーンである確証を得てから行動に起こすヒトですので。  帰ってこないというよりはただ単に仲直りに時間がかかってるか、無事仲直りしたついでに時間ギリギリまでイチャついてんじゃねぇですかね。  その辺りには定評があるんですけど、高遠にそれを教える義理もないので。 「変なこと聞いていい?」  変な顔をしてこっち見ないでもらえます? 「変なもん聞かれんのは(やぁ)ですよ」 「んー、気になってんだけどさ」  嫌だって言ったって止めねぇんでしょうが。 「ま、どうぞ」  しーなが何でもかんでもやってしまうから、バッサリ言ってしまえば暇なんですよ。  フォローなんて必要も無く、会場の隅で何かしらのトラブルが起きていないかの確認と外部との中継程度しかやる事がないもので。本部の壁に凭れて二人でなんとはなしに会場を眺めて過ごしてるんですよ。  そりゃあおしゃべりのひとつもしたくなりますわな。 「来宮と椎名ってどっちが上?」  思わずずっこけてしまった。  俺でも膝から力が抜けることくらいありますよ。  そんなことを聞かれるとは思ってもみなかったし、構えてもなかったもので。  高遠は昔から変なところを突いてくるので気が抜けない。 「本当に心の底から変な話を振りやがったな」 「いや、気になるだろ」 「なんねぇし聞かねぇよ」  いや、なるか?  高遠からしたら長年面倒を見てくれた従兄にやっと出来た初彼氏だし?大体、従兄に彼氏なんか出来ねぇよな。そしたら、まぁ、気になるものですかねぇ?  いや、ならねぇな。  答えるのは構わないけどお前聞いてどうすんの? 「俺」  自分から話を振ったくせに、高遠のやつは静かに自分の頭をぐしゃぐしゃと掻いた。  確かに身長こそしーなの方が高いですけど、性格とか行動パターンとか思考パターンとか見りゃお前は心理学科の院生なんだから、身内のは聞かなくたって大体わかるんじゃねぇですかね。  あーうーと(うめ)きながら更に髪をガシガシ引っ掻き回してるところを見ると、少し気の毒な気もするけど自業自得ですからね?  聞かなきゃ良かった訳ですし。 「なんとなく、そーかなーとは思ってたけど」 「シュレディンガーの猫ってご存知で?」 「あー、まぁ、そーだな」  確認しなきゃいいもんを……。身内のそういうのは確認しないに限るんですよ。どっちがどっちだって微妙な気分になるんなら特に。  知らなきゃどっちがどっちでも、分からないもんはいつまで経ったって可能性は半々のままなんだから。 「猫?」 「おや可愛らしい」  粗方人も()けて、本部へ戻ってきたしーなの頭には黒い猫耳が付いていた。生徒にイタズラされて付けられたらしいですけど、どうせならシッポもくれたら良かったのに。  しーなはやっぱりこういうの似合いますね。まだ仮装グッズ売ってそうですし、俺の目の保養の為になにか買ってきましょうかねぇ。 「後は明日業者さんに任せればオッケーな感じかな。最終確認に恭くんとこうちゃん呼ばないと」 「では呼び出しましょうかね」 「は?呼べんの?」 「電話くらい持って行ってるでしょうよ」  高遠って変に気を使うというか……。気の毒な性分ですよ。邪魔をしたら悪いとかそういう事を無意識に考えてしまうんだから。そのままだと気を使い過ぎて将来禿げますよ。  可哀想にと思いながらも口論をする気もないので黙って電話を掛ける。 「あ、河野さん?そろそろ戻ってもらっていーですかね?」 「本当に出た……」  河野さんはワンコールで出てくれたのでそろそろ初町さんの相手が鬱陶しくなってきたか、スキンシップが過剰になってきた頃合だったのかもしれませんね。  端的に「今戻る」とだけ言われて切れてしまいました。 「あの二人はどっちがどっちなんだ?」 「だから、それは……」 「こうちゃんがネコだよ?」 「しーな!」 「え?見てれば分からない?」  え?何当たり前のこと言ってるの?みたいな愛らしいきょとんとした顔で爆弾を落としてはいけません……いけません……いけませんってば……。  こちらに関しては俺はノーコメントですからね。  高遠もあー……、とか呻きながらまた頭を掻き回しはじめた。  アンタも()りねぇなぁ。 「なんだかんだ言っても学生の時からずーっとラブラブだもん、あの二人」 「あー、うん。それ俺も知ってる」 「でしょ?こうちゃん、嫌いな子に構ったりとか絶対にしないもん」  ね?って俺に話を振らないでいただきたい。  そこに関しては本気で関わらないと決めているんですから。  身内のそういうのは、なんというか、こう、ねぇ?特に河野さんの場合は長年近しい距離で一緒に居たもので、実の親や姉の生々しい話以上に俺にとってはセンシティブな内容なんですよ。  俺は河野さんの家のお隣さんで、部屋だって向かい合ってんですよ。窓を開けてその気になりゃそのまま行き来できる距離感で、そこそこ電話の声とかも聞こえたりしちゃうんですよ。  その環境で今まで過ごして来てんですよ。  無理は承知でお願いしますから、どうか察していただけませんか。 「俺はきののが分かり難いかなぁ」 「そうなの?でもさー、恋人の心理分析とかしない方が良いと思うけど」 「しようと思っても出来ないしね」 「椎名でも無理なもん?」 「うん。私情が入るから俺には無理」  俺はしーなの思考なら手に取るように分かるけどな。  でも、分かったところで望むものを返してやれるかどうかはまた別の話。  こちとらまだ社会人一年目のぺーペーなもんで、人生経験だってしーなに軽く負けてますからね。  目下修行中なんですよ。  しーなと高遠のやり取りを眺めていたら待ち人から声が掛かった。 「何が無理なんだ?」 「問題(トラブル)でも発生した?」  裏口から入ってきた二人は何食わぬ顔でおりますが。繰り返し申し上げますと、河野さんとのお付き合いもそろそろ二十年近くなりますので些細なことにも気がついてしまうわけで。  まぁ、当人が幸せそうならそれでこちらと致しましては何も言うことも無く。  この場に()いてそういうのに気が付けるのは俺だけでしょうから、黙って初町さんの尻を軽く叩くに留めておく。  アンタちょっとは自重しなさいよ。 「身内の恋愛事情は分かり(にく)いって話ですよ」 「……分からない方がいいヤツだな」  俺に対する気まずさからか、初町さんは逃げるように最終確認をするって実行委員の学生達の方へ走って行ってしまった。気を抜いてたしーなは、急に走っていった初町さんに驚いて今までの流れを引き継がないとって慌てて追いかけていってしまった。  初町さんはあれでも俺にそれなりに気を使って下さっているらしい。  恋人の弟とかそういう感覚なのかもしれないし、俺は子供の時からそれなりに初町さんともお付き合いがありますんで、弟にそういうのを見せるのが気まずいってことなのかもしれませんね。  残された三人でまた壁に凭れてうだうだする。  流石(さすが)の高遠も今の河野さんに絡む気は無いらしい。 「でもまぁ」  珍しく河野さんからの自主的なお言葉。  俺と高遠は反応を頷くだけに留めて先を促した。 「俺は池田に言わせると、返報性の原理を強めた性格をしてるらしい」 「施しには施しを?」 「おう。だから、これはこれで一番良い選択をしたって思ってる。恭君と一緒に居れば、少なくとも誰かに騙されたり利用されたりっつー……最悪命に関わるような目に遭う心配は一生涯しねぇで良いからな」  ボソボソ話してくれたところを要約すると、つまり。合鍵を受け取ったと言うよりは同棲しますってことかと。  河野さんの性格を鑑みるに、素直に初町さんと暮らしますって言うのはハードルが高いんでしょうね。でも、我々には一応は一報をといったところでしょうかねえ。 「それに恭君以上の感情を俺にぶつけてくるような相手はこの先どんなに経ったっていねぇだろうしなぁ」  少し俯いて顔を隠してしまいましたが、とても珍しいことに河野さんにしては随分と柔らかい。少し下世話な言い方をすれば、本当に可愛らしいお顔をなさっておいでで。  恋って人を変えるんですねぇ。あー、これはもう愛でしょうかね。このヒトにこんな顔をさせてしまうんだから、少々暴走が過ぎても俺からの文句やらなんてあるはずもない。 「河野さんが幸せならなんでもいーですよ」 「俺もそう思うわ」  俺達の返事を聞いた河野さんは、軽く頭を下げてから反動をつけて壁から離れて初町さんとしーなの方へ歩いて行ってしまった。  これでハロウィンパーティーもお開きですね。 「ねー知ってる?」  駅から自宅への帰り道。  相も変わらずしーなを自転車の後ろへ乗せて家までの道のりをかっ飛ばす。  しーなは背が高いのに巧く身を屈めて風を避けるから、さしたる抵抗も無く夜の住宅街を自転車はビュンビュンと軽快に秋風を掻き分ける。 「何を?」 「月が綺麗ですね?ってやつ」 「あー、I Love Youの?」 「そー!」  どっかで聞いたな。くらいの知識だからよく知らないですけど。  急にどうした? 「むかぁしね、恭くんが初めてこうちゃんと二人きりになっちゃった時にね?地下鉄のホームのライトがこうちゃんの目に反射してて、それが三日月みたいに見えたんだって。そんで思わず恭くん、言っちゃったんだって」 「初対面で?月が綺麗ですねって?」 「そー!」  テンパってるのが目に浮かぶようですね……。  あのヒト、本当にイレギュラー耐性ガバガバだからなぁ。  高校生の時の河野さんは男子高校生平均値並みの体力はあったものの、今よりもずっと線が細くって確かにちょっと華奢で儚げな美少年だった。  意図せずに二人きりになってしまったのであればそれは思春期真っただ中の初町さんには刺激が強かったことでしょう。  ついでに言ってしまうと、河野さんがしっかりと筋肉と体力をつけたのは初町さんから逃れる為なので今から比べると体格だけなら別人。 「んでね、その時〝まだ死にたくない〟って言われたんだって」 「うん?」 「でね〝つまんなそ〜な顔してる〟って」 「あぁそうね、言いそうだわ」  河野さんならまぁ。  でもあのヒトにしてはやらかしてんな。まだ死にたくないとか。あれでしょ?この話、OKの時が死んでもいいとかだったよな?じゃあ、変に〝まだ〟とかつけないで〝死にたくない〟って言えば断れたでしょうに。  なんでいつもみたいにサクッと断んなかったんでしょうねぇ。  動揺する初町さんに同情でもしたんですかね。 「そん時は恭くんそれ知らなくて、気がついた時に(もだ)えたらしいよ」  帰り道の住宅街。  日はとっぷりと暮れてはいるけども、まだそこそこ人通りがあるって言うのについつい声を上げて笑ってしまった。  そりゃ悶えるわ。  初めまして、愛してます!  どんなサイコ野郎だ。 「きの笑いすぎー」 「しーなだって笑ってんじゃん」 「笑わないわけないじゃん」 「でしょう。こんなん笑うに決まってるでしょうよ。知らなかったわ」  目をぐるぐるに回して頭抱えて悶えてる姿が容易に想像できて笑いを堪えるなんて無理だ無理!河野さんはそういう話をして下さらないので初めて聞いたわ。  あー、でもそれで合点がいったわ。 「河野さんね、アレなんですよ」 「どれ?」 「そういうの、実は弱いんです」 「そーなのっ!?」  詩的なやり取りとかね、嫌いじゃねぇのよ。  なにせ空見て過ごしてるガキに付き合えちゃう(みやび)な感性の持ち主よ?あのヒト。  だから文化祭で見ただけで告白して断られて去っていった塵芥(ちりあくた)の連中と、諦めずに三年間も玉砕覚悟で告白し続けた初町さんじゃどちらに軍配が上がるかなんて決まりきってたわけだ。 「で、つまんなそうなっていうのは?」 「なんかねー、恭くんのお家超スパルタっていうか。社長さんとかの一家らしくて。親とか周りからの期待に応え続けてたら自分が何者かわかんなくなっちゃったらしいよ」 「それはキツイな」  だからってあんな暴走族(ストーカー)にならなくてもいい気もしますけど。  真面目君が振り切れると思いっきり行き着くとこまで行くいい例なのかもしれないですねぇ。 「恭くんて恭一でしょ?」 「長男なら期待もさぞ重かったでしょうね」 「それがねー、三男なんだって。上二人も名前に〝一〟が付いてて、誰かが病気とか事故で居なくなっても跡継ぎが絶えないようにって(うち)は代々そういう名付けなんだよって」 「……それは」  なんでもないことのようにきっとニコニコと笑って話したんでしょうね、あのヒトは。  自身の心に対して痛いとか苦しいだとか、そういう感覚が麻痺している(かた)だとは前々から思っていたのですが。  生まれてからずっとそんな世界に居たのであれば、確かに河野さんは救い……光ですらあったのかもしれないですね。  河野さん(あのヒト)はただそこにそうして生きているだけで、その存在を当たり前に認めて下さいますから。  人によっては押し付けがましくも感じる陽の光ではなく、柔らかで控えめな月の光に()かれたのは理解に難しくない。 「こうちゃんと一緒に居るとね、品行方正でなんでも人より秀でている皆の理想の優等生(初町くん)じゃなくてただの初町恭一(じぶん)でいられるんだって」 「なんだか、それわかるわ」  前言撤回。  子供の時からそうだったなら、そりゃ暴走族(そう)なるわ。  初めて自分の為だけの光を見つけて、その光に僅かでも届くとしたら。  その可能性がそこにあったとしたら。  必死に、見失わないように、どうにか届くようにと、歯を食いしばって今まで積み上げてきた全てを失う覚悟でもって手を伸ばすでしょう。  黙って親の用意したレールを走っていれば苦しくとも安泰で、あそこまで心が麻痺をしているのならばキツくともそれを飲み込んで生きる道を普通ならば選んでしまいそうなものなのに、そうせずに河野さんだけを見つめて追いかけ続けた。  河野さん(それ)は初町さんにとってどれほどの感情(きぼう)だったんでしょうね。  他人の感情に疎かった昔の俺では理解は出来なかったでしょうが、今は僅かですがわかる気もします。  家に近づいて来たので減速するとしーなはひらりと自転車から飛び降りた。  駐輪場へ自転車を押していく俺の後ろをしーながスキップするみたいな軽やかな足取りでついてくる。  しーなが跳ねるたびにふんわり柔らかな花みたいな良い匂いがするけど、金木犀はもう終わってるだろうし何の匂いだ? 「俺もね」 「はい」 「きのと一緒だと、飾らないで俺で居られるよ」  あー、これしーなの匂いか。  同じボディーソープ使って、シャンプー使って、コンディショナーからトリートメント、果ては洗剤に柔軟剤に至るまで同じなのにな。 「いつも誰かの背中を見送ってた。そばに居てくれたら良いのになぁって思いながらずっと背中を見送ってた」  何でこんなに違うんだろう。 「好きな人にそばに居てほしいってずっと思ってた」  しーながふんわり笑う。 「気が付いた時にはいつも手遅れだった」  柔らかくて甘いしーなの香り。 「初めて追いついた。きのに、ね。追いつけた」  胸が苦しい。 「きのは、俺に気が付かせてくれた」  部屋まであと少し。  流石にここで抱きしめたりは出来ない。 「さっさと部屋行くぞ」  手を握って家まで走る。  だんだん顔が赤くなってきてる気がする。 「うん!」  俺だってそうだよ。  他人なんてどうでも良かった。  そも人間になんてさして興味も無いし、爪弾きにされないように適当に生きてけりゃ良かった。  毎日それなりに過ごして、飯食って、寝て、朝が来て、そうして歳食って死ぬもんだって思ってた。  明日急に俺が死んだとして、泣いてくれるのは河野さんとか初町さんとか……高遠くらいなもんだと本気で思ってた。  それを哀しいことだとも思わなかった。  それに、その三人がどうにかなった時くらいでしか俺の感情は動かないだろうって本気で思ってた。  全部。  全部がひっくり返った。  しーなが全部ひっくり返した。  しーなが悲しむから、なにがなんでも生きてやるって思うようになった。  どうしたって人間(おれたち)は他人と関わらなければ生きてはいけないことを、しーなは自身の生き方でそっと俺に教えてくれた。  ただ笑い合って一緒に歩いて行きたいって、そういうことに気付かせてくれた。  エレベーターを降りて、廊下に足音が響くのはマズいから速足で部屋へ向かう。 「そういえば!」 「なに?」 「ケーキとか買っておいてくれたでしょ?」  バレてんのかよ……。  ダセェなぁ。  しーなは学祭前はバタバタしてたから冷蔵庫なんか開けやしなかったのに。  ささやかではあるけど。しーなに笑ってほしいって思ったんだよ。ちゃんとしーなが淋しいって思ってんの、気が付いてたんだよ。 「二人でパーティーするの?」  ちょうど部屋に着いたので、いつかのように玄関にしーなを座らせた。  後ろ手で鍵をかけてから、今度はしっかりと唇へキスを落とす。 「しーなが喜ぶと思ったんだよ」 「うん!」 「お前が喜ぶなら何だってするし、多少の無茶なら平気でしてやる。俺と一緒に居ることでしーなに何か損が起きないように、いつか何かの障害が起きてもどうにでも出来るようにって。それで淋しい思いさせてたら世話ないけど」 「無茶はだめだよ」 「三年も秘密にしてきたんだから多少はいけんだよ!」  抱きしめた体はやっぱり細い。  キスをしながら、もう少し肥えさせないとなって考える。  病める時も健やかなる時もっていうならいつだって健康体でいてもらわないと。 「俺だってしーなじゃなきゃこんなんなってねぇんだから、責任とって一生隣で笑っててくれないと困るんですよ」  ちょっと角度をつけて唇を()む。  髪に手を差し込んで、艶やかな感触を楽しんでいたら何かもこもこした感触がする。  あ、猫耳くっついたまんまでやんの。  そっと唇を離して、形のいいおでこにチュッてリップ音を立てて軽いキスをすると猫耳をくっつけたしーながそれはそれは愛らしく笑う。  それに俺までつられて笑い出す。  ハロウィンの夜はまだあと少しあるから、今からは二人で楽しみましょうか。 【END】  
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