22人が本棚に入れています
本棚に追加
side 来宮×椎名
【椎名eyes】
本当はハロウィンとかどうでもいいんだ。
現に今までは気にした事もなかったし、テレビや雑誌で特集が増えるとか、飲食店で限定メニューが増えるとか、そういうのでしかハロウィンなんて意識してなかったし今だってしてない。
そもそもがこの時期は忙しいし、ハロウィンだから遊びに行こう!って発想もわかなかった。そういう相手も居た事がなかったのもあるかな。それに学生時代はそんなにハロウィン流行ってなかったんじゃないかなぁ。最近は当日に街中で仮装してる人を見てあー、そういえばハロウィンの季節かぁって思うくらい?
「きのドラキュラ似合うね」
「……まぁ、しーなが気に入ったなら何よりですよ」
本当はわかってる。
ちょっと困ったように目を見開いてから、にまっと唇を笑みに敷いてみせるきのはこういうのあんまり好きじゃないって。
わかってるけど、それでも俺に付き合ってくれてるのが嬉しくて顔がニヤけてきちゃうんだ。
社会人になってからのきのは本当に忙しそうで。
それでも俺の事を一番に考えてくれようとするから。だから俺はもっと一緒に出掛けたいとか、恋人っぽい事をしてみたいとか、そういうちょっとした欲を押し殺してきた。
俺の方が年上だしね。
でも、きのと一緒に過ごした大学にきのの姿がなくなってからふとした時に目が勝手にきのの姿をを探しちゃうようになった。
優秀な生徒だったきのは当たり前に卒業しただけで、普通に家に帰ればただいまーって帰ってくるのはわかってるのに、朝だって一緒に家を出てるのに。
学校中のそこかしこに散らばったきののかけらを無意識に拾いあげては寂しくなる。
いつも空き時間に座ってたカフェテラスとか、フリースペースとか、俺を待ってる時に寄りかかってた欅の木の下とか。そこにきのが居るんじゃないかって勝手に期待して、当たり前に居なくて勝手にしょんぼりする。
特に秋はダメ。
少しづつ寒くなって来て、日が落ちるのも早くなってきて、隣の空間がやけに広く感じるから。
マントをひらひらとはためかせながら隣を歩くきの。反対側の隣にはしんが居る。ちょっと前には当たり前だった事。
「写真には満足出来ましたか?」
「うん!」
「良く撮れてんじゃん。超バカップル的な意味合いで」
「言っときますけどこれ撮ったのアンタですからね?」
しんが言う通り、写真に収まった俺ときのはバカップルそのもの。
こうちゃんと恭くんの真似をしてチューしてみたり、抱きついてみたりした。そしたら、テレ屋のきのにしては珍しくほっぺにチューをしてくれた。
それがすっごく嬉しくて、こっそりお気に入りに登録した。
寂しいなーって思った時に見ようと思って。
「そういえばこれ、パーティー会場へ向かってたりします?」
「言ってなかったっけ?そろそろ時間だから恭君達呼んで来いって実行委員の奴等にせっつかれて迎えに行かされたんだよ」
なんでかしんがげんなりした顔で肩を竦めてる。
写真を撮ってからなんとなく三人について歩いちゃってたけど、パーティー会場へ向かってたのか。
「はぁ?そんなん学生が自分で呼びに行けば良いでしょうに。あのヒト達どこにいたんです?」
「職員待機場所。学生は二人とも朝から働き詰めだったから疲れてそうで呼び難いって気を使って迷ってただけだけど、俺は違う意味で呼び難かったよ」
「あー……そりゃお疲れ様でしたね」
「ありがとう」
きのとしんが疲れたように笑い合ってる。
今の会話に疲れる要素あった?
「椎名ちゃん、ちょっと良いかな?」
なんでかおしりを擦りながら恭くんが俺の隣に並んできて、番号のついたカードを差し出したから流れのまま受けとった。
カードには大学の校章が刻印されてて、真ん中に番号がついてる感じ。
これ、なんだろ?
「出来レースで悪いんだけど、デモンストレーションの為に学校関係者が一番で告白大会出る事になってて。それの番号札」
「ん?俺やんの?」
「頼めるかな?本当は学生のが良かったんだけど、それだと仕込みがバレそうだって事でね」
告白大会って身も蓋もない言い方をしたね。
この言い方だけで恭くんがこの催しを快く思ってない事が伝わってきた。
「うーん……告白かぁ……」
「じゃあそのお役目とやらは部外者のワタクシめが頂きましょうかね」
スルッと俺の手からカードが抜け出ていって、目で追ったらきのがカードをニマッて笑った口元にぺちぺちあてた。きのは今ドラキュラの格好だからその仕草がすごく似合ってて格好良い!
俺は嘘とか苦手だからさー、バレバレどころじゃないよねーって不安だったのを察してくれたんだと思う。
「高遠にでも愛の告白をしてやりましょうかねぇ」
「おいバカやめろ!」
「おや?俺に好かれるのはお嫌で?」
「相手は一本に絞っとけ。じゃなくて!面倒事に巻き込まれんのは普通に嫌だろ」
「おやおや、相変わらず真面目なことで」
「お前は良くても俺は大学の院生なんだよ!」
眉間に富士山みたいな皺を寄せてしんが抗議の声を上げた。
そっか。
俺、准教授だもんね。
だからきのが当たり障りなく処理してくれようとしてるんだ……。
多分だけど、恭くんはきのだったらそうするだろうなって思って俺に頼んだんじゃないかなぁ。
こうちゃんもちょっと渋い顔をしてるけど反対しないし、多分そう。きのを何か面倒事に巻き込むのってこうちゃんがとっても嫌がるから恭くんは今までずっと黙ってて、今このタイミングで言えばきのはきっとこうするだろうって思ってたって事。俺が恥をかいたりしないように、きのは絶対に受けるって事。そうしたら物事がスムーズに進むって。
「俺が指名受けるなら大丈夫だよ」
俺出来るし、やるよ?
いつまでもきのに守ってもらってんじゃ嫌だし。
ほんとのとこ、恭くんにそう思われたのちょっと面白くないし。
「あー……椎名ちゃん。キノに任せとけ」
「頼んどいてなんだけど、やってくれるなら来宮の方が適任かと」
「わぁったよ!愛の告白じゃなかったら甘んじて受けてやるから」
「高遠は話が早くて助かりますね」
満場一致できのとしんがデモンストレーションをやる流れになっちゃった……。
俺、そんなに信用無い?
残念感が顔に出たらしくて四人ともハッ!とした顔をした。慌てたしんがフォローを入れようとしたけど、そこはしんだからね?
「ほら、椎名がステージ上がっちゃったら誰もフォロー出来ないじゃん?来宮相手じゃマジなやつ過ぎてフォローも何もないじゃん?それに悪気なく誰も止められない超豪速球のオウンゴール決めるのが椎名だろ?」
「おいコラ!それ俺がトチるの前提だろ!」
「トチるだろ、椎名だぞ!」
「しん!俺をなんだと思ってんの!」
「椎名!」
しんのやつ!
俺としんがぎゃんぎゃん口喧嘩してる内に会場に到着してた。
苦笑いのにまにま笑顔でため息をついたきのが、しんの肩をぽんぽんって叩いて俺にカードを差し出した。
「高遠を指名しても俺を指名してもいいですよ。どちらもディフェンス、オフェンスともに得意ですので」
「ちょっ!来宮、何血迷って」
「だぁいじょうぶですよ。このヒト思ってるよりやりゃ出来る子ですから」
カードを受け取った俺もにまにまにま~って笑顔になった。
きのはいつもこうやって俺を信じてくれる。
それが堪らなく嬉しい。
しんは嫌そ~な顔してるけど、きのはもうさっさと外部参加者受付を済ませて来た。
最初のコメントを投稿しよう!