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side 来宮×椎名
【来宮eyes】
10月31日。
世でいうところのハロウィンってやつでございます。
この時期になると街にはカボチャやら黒猫やらのこれぞハロウィン!っといった装飾が溢れて、学生やカップルなんかがキャッキャウフフとそれはそれは楽しそうにを準備を始める。
悪くないというか、いいんじゃないですか?平和で。
こちとら社会人一年目でしてね。そんな浮かれてる暇なんかないっつー話ですよ。
俺、来宮哲哉は大学二年生の時に准教授の椎名光希と出会ってしまって、それなりにあーだーこーだやった後、卒業と共にめでたく同棲を開始しました。
あーだこーだのあたりは今は面倒なんで割愛します。付き合うまでもうだうだやったんで、そりゃあその後だって色々ありますよ。無いわけが無い!ま、その辺は皆様のご想像にお任せしますってことで。
で、話を戻しますよ。
今年の春に同棲を開始したので恋人……と言うよりイメージは新婚(未だになんか照れますね)のしーなとの初めてのイベントらしいイベントがこのハロウィンです。
今に至るまで春から夏季休暇までは新社会人の俺が想像していたよりも新生活に順応するのがキツくて時間がとれず、入れ替わるように今度はしーなが忙しくなってしまって。
卒業までは先生と生徒だわ、学生の本分は勉強です!状態だわ、なんなら学費を自分で稼いでいたのでこういう浮ついたイベントものは無理して時間を工面した誕生日程度だったんですよ。だから今年はなんかちょっと気の利いた事を……と考えていた矢先。
「今年はハロウィンパーティーを学祭の一環としてやるんだって」
あぁん?
しーなの奴、なんか楽しそうに俺にとっては楽しくない事を宣いやがりましたね?
ただ今の時刻は22時半。場所は我が家のリビング。
俺がくったくたになって仕事からやっとの思いで家に帰り着いて早々に放たれた言葉の威力に、残業上がりでHPほぼ0の俺は膝から力が抜けていくのを感じた。
紳士淑女の皆々様、お分かりいただけますでしょうか?
お分かりいただけるものと信じております。
それなりに計画していて、あとは実行に移すだけって状態で肩透かしを食らったワタクシの気持ちを。
『おいコラ!なんで学校主催でハロウィンパーティーとか企画しやがってんだ。こちとらしーなの可愛い仮装を楽しみにしてたんだぞ!っざけんな!』
まぁ、顔には出しませんけどね。
のちほど開催日時を確認しておきましょう。
もしかしたら10月31日は日曜日ですし、金曜の夜とか土曜日かも知れませんしね。こんなに楽しそうにされたら不貞腐れた顔なんて見せられませんよ。
「今年はさー、なんか経済活動の観察したいからって縮小模擬的な実験を兼ねて経済学部主催でやるとか言ってて。ならついでに人の行動パターンの観察も兼ねてパーティー的なのやっちゃお~かみたいにうちの学部の学生まで盛り上がっちゃってさー。気が付いたらそーいうことになったんだよねぇ」
「それ、初町さんと高遠ブチ切れ案件では?」
「なんでわかんの?きのすげーね」
平和に生きてるしーなには、初町さんの複雑な胸の内はわっかんねぇだろうなぁ。
言うまでもなく初町さんは恋人の河野さんとイチャイチャしたいんですよ。恋人が居たら何かしらのイベントがあればそこにかこつけて盛り上がろうとしません?俺はします。
十人居りゃ十人が認めるであろう超インテリ系のイケメンでもあの方の本質は相変わらずで、河野さん以外はなーんにも目に入ってないんですよ。もっと言ってしまえば、暴走気質のトンデモ野郎なんですけど、見た目の爽やかさと育ちの良さが醸し出す物腰の柔らかさで本質をスルスルっとうまぁく隠してしまっていて、河野さんと仲が良い俺くらいしか初町恭一の正体に気が付いてないのでは?ってほどの手練ですよ。
そりゃあ経済学部が主でってなったら、経済学部の准教授である初町さんは最年少ですからねぇ。当然雑務のオンパレードで時間を取られるし拘束時間も増える。つまりは河野さんの平穏な生活が約束されるわけで、彼の心の安寧が図れて何より。
しっかしなぁ、なんであんなに構われる度に顰めっ面になる相手と何年も好き好んで恋愛関係続けてんのか、河野さんに対して謎には思ってるんですけどねぇ。馬に蹴られて死ぬどころか、それ以上の目に遭いたくないので無視を決め込んで早十数年。
「こうちゃんも手伝いに回されたらしくって、今日めっちゃ膨れてたんだよね」
「……あ、あのヒト死んだな」
昔から思ってたけど、神様ってやつは河野さんに対してやたらと厳しすぎやしませんかね。
若しくは初町さんに激甘。
これでは河野さんの好む静かで平穏な研究にだけ没頭できる時間は訪れないし、初町さんの河野さんを摂取できるなら忙しくても外面は保てる生活は保証されたようですね。
ついでに、巻き込まれたであろう高遠もご愁傷さまですと心の中で合掌しておく。
「外部もOKだからきの来てくれるでしょ?」
「日曜ですからね。行きますよ」
「待ってるね」
やっぱ10月31日か。
俺の休日が死んだ……。
あー……それにしても。あいっ変わらず可愛い笑顔だなぁ、おい!ニッコリ微笑まれたら残業の疲れとか吹っ飛ぶわ。
俺の返答がお気に召したしーなは上機嫌で夜食だって茶漬けを出してくれた。鯛の薄切りが乗ってるやつ。
本当は今日は刺身だったんだな。
遅くなってしまったからしーな一人で食べたのかな。
悪いことしたな……。
「は?河野さん?日本語を喋ってもらっても?」
「日本語しか喋ってねーぞ」
ブスッと不貞腐れた河野さんとランチ。
このヒト、普段はあんまり表情が変わらないのでこんなに分かりやすくぶすくれてるなんて中々にレアなんですよね……。
外回りのついでに連絡をとったら丁度時間が空くって言うので、軽く食べながら情報収集をするつもりが酷い話を聞いてしまった。
「仮装は必須だぞ。それも統計とるらしいからな」
「はぁ……で、河野さんはなんの仮装を?」
「狼男だってよ」
「あ、わりと普通ですね。着ぐるみで?」
苦虫を20匹位かみ潰したような顔になりましたね。まさか裸に犬耳としっぽじゃないでしょ?
聞けばいつもの白衣引っ掛けたラフな格好に犬耳とシッポと首輪がくっついただけらしいですけれど、それでも河野さんの性格を考えれば嫌で嫌で仕方がないんでしょうね。
(血まみれナースとかそういうテッパンのやつは絶対に初町さんが許可しないでしょうしね)
河野さんの見た目は三十も半ばだというのに、未だに仄かに中性的な儚い雰囲気をまとっていてそこに本格的な仮装なんてしてしまえばまた面倒が増えるのは目に見えているので適当くらいでちょうどいいかと。首輪とかつけ耳とかは需要がありそうではありますが、まぁあの暴走野郎が許容範囲に収めることでしょう。
「恭くんがマミーらしくて、俺はそっちのが良かった」
「包帯巻くだけでしょ?どうせあの方は大学側の総監督やらされるから楽なのにしたんじゃねぇですかね。で、高遠は?」
「フランケンシュタインらしい」
「なんか物凄い影っていうか、背景に深いストーリーを背負ったフランケンシュタイン出てきそうですね」
「被り物じゃなく自前でなんか化粧するらしいぞ」
「本気のヤツ!」
「お前用には高遠がドラキュラ用意してあっから」
「おや、そらどーも」
俺まで着るの確定かよ。
まぁ、露出は少ねぇからマシだな。
いつもの調子でお似合いですねぇとか迂闊に言って、フランケンシュタインにぶん殴られるのは勘弁だ。高遠だってノリノリで仮装するようなキャラじゃないですし、なんならそういうのは面倒がるタイプですもんねぇ。しーなが張り切っちゃってるから付き合わざるを得なくなって、変に真面目だからしっかり準備しちゃう子なのよ、アイツは。
地雷を踏み抜かない的な意味で、情報収集は大事ですよ。
あとはしーなですね。
「で、しーなは?」
「聞いてねーのか?」
「はい」
テンションの高いしーなから何かを聞き出すのはほぼ無理なので。楽しくなっちゃったしーなは興味のあることしか話さないんですよ。しかも、キラッキラした目で見つめて話してくるからつい聞きそびれてしまう。
笑顔のしーなに俺は弱い。
「魔女だな」
「魔法使いではなくて?」
「高遠が魔法使いの衣装買って来いっていったら魔女買ってきたんだよ」
安定のしーなだ……。
魔法使いと魔女の違いがわかってねぇんだあのヒト。後でスカート取り上げとかないといけませんねぇ。河野さんが白衣ならしーなも帽子とマントだけつけてりゃいけるでしょ。
それにしてもシーツでも被ってオバケやってりゃいいものを。背が高いから足だけ見えてお前それオバQか?ってなるのは目に見えてますけど、その方が変な虫がよってこなくていい。
「ま、高遠とゼミ生が張り付いてるから安心しとけ」
よりにもよって河野さんに同情されてしまった……。
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