第四章

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 1  何度目かの、「体がところてんになった感覚」を感じながら。まりんは、自分が「オタクJK」である、「現実の世界の、自分の部屋」に戻って来た。  何度目かではあったが、今回はほとんど初めて、鏡を「意識して使った移動」だった。しかも、かなり緊急の。まりんは、自室の床に座りこみ、「はあ、はあ」と荒い息を突いた。  ……良かった、なんとか戻ってこれた……。  まりんは、隠し通路内での「危機的状況」をなんとか回避出来たことで、とりあえずほっとしていた。だが、これが一時的な「緊急避難」であることも、まりんはわかっていた。  ……またあの鏡を使って、「向こうの世界」に戻ったら。あたしが鏡に入ったのと同じ時間、つまり追って来るディオンさんがすぐそこまで来ている時間に「戻る」のよね。だから、このまま戻っても、ディオンさんに捕まるだけ。何か、考えなきゃ……!  何はともあれ、向こうに戻った時に「武器」を持っているのが、一番いいのではないかと思えた。とはいえ、部屋の中に武器になりそうなものは置いていない。男子だったら野球のバットとかギターとか、運動好きな女子だったらテニスのラケットなどが、今は使っていなかったとしても、部屋にある可能性もあるだろう。しかし、オタクJKのまりんにとって、そういった用具は部屋の中に見当たらなかった。  まさかゲーム機を持ってって、それで殴るってわけにはいかないしね。コスプレ衣装を作った裁縫箱の中に、小さなハサミとかはあるかしら。でもそれじゃ役に立ちそうにないしね……。  まりんは思いきって、台所に行って包丁などを持ってこようかと考えていた。……今度は道具を入れる袋も持ってきたから、ナイフや包丁を何本か入れてって、それを投げつけるってのはアリかしら。でも、あたしがディオンさんにちゃんと命中させられるかと言ったら疑問だし、手に持って戦うのも慣れてないから、ナイフを持ったディオンさんに敵うかどうかわからないし、また奪われちゃうだけかもしれないし……。  まりんは「う~~ん」と考え込んでしまった。しかし、こうして「考える余裕」が出来ただけでも有難いことなんだと、まりんは「鏡」の存在に感謝していた。
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