第四章

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 そうね、あの「鏡」がなければ、こうして避難することも、何か「いい手」をとか考えることも出来なかった。やっぱり向こうの世界は「あたし向き」に出来てるんだって、そう思わなくちゃ。ここに戻って来たことに、きっと何かの「意味」があるはず……!  そこでまりんは「はっ」と思いついた。そうだ、「それ」ならあたしにも使えるかも……? 確か、家にもあったはず。まりんは母親に気付かれぬよう、足音を潜めて階段を降りると。玄関先をキョロキョロを見渡した。  ……あった!  まりんは靴箱の脇に置いてあった、家庭用の消火器を手に取った。……賞味期限とか大丈夫よね。賞味じゃないか、なんていうんだろう。使用期限? まりんは消火器に付いているラベルを見て、まだ十分に使える期間内であることを確認し、再びソロリソロリと階段をあがった。  部屋に戻り、改めて消火器の本体に貼ってある、使用方法を見てみる。学校での消火訓練に参加した経験はあったが、オタクだったまりんは消火器を使う役目にならないよう、そんな時は必ず息を潜めて「そこにいないフリ」をするよう心掛けていた。つまり、消火器を使うのは生まれて初めてだったのである。  ……でもこれを目の前で噴出されたら、ディオンさんもぶったまげるわよね。向こうの世界には絶対ないものだものね。  消火器は粉末を噴出するタイプのもので、ついさっきディオンに投げつけた薬草や毒消草の粉末の、数十倍の効き目があると思われた。……まずピンを抜いて、ホースを持って、レバーを強く握る。ピンを抜く、ホース持つ、レバー握る……。  まりんは頭の中で、その手順を繰り返し反芻した。向こうに戻ったら、恐らく時間的な余裕はない。戸惑っていたら、あっという間に捕まってしまうだろう。向こうに戻った直後の、一度きりがチャンスだ。ふと思いついて、パソコンで「消火器の使用法」の動画を検索し、自分も手に持ってやり方を確認してもみた。……焦らなくていい、こっちで十分に時間をかけて、準備万端にしなくっちゃ。向こうについてから、確認してる時間はないんだから……!
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