1,winter

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1,winter

早坂勤(つとむ)は、代走者である。 といっても野球の代走ではなく、また他の競技の代走でもない。 まだ中学生なので、それが仕事というわけではない。 “友情”という大義名分において走っているのだった。 その友情の相手、堤隼斗(つつみはやと)は、去年の11月に足首を捻挫しじん帯の一部を断裂して走れなくなった。 彼は陸上競技の選手ではないが、個人的な理由で走り続けなくてはならなかった。 亡き父親との約束のために。 勤と隼斗は小学校からの友人で、中学に入ってから同じクラスになったこともあって、親友にレベルアップした。 2人とも中学に入って天文同好会にそろって入部したが、あまり積極的に活動せず、もっぱら好きな漫画やアニメの話題で盛り上がっていた。 小学校の時、隼斗は虚弱で冬になるとよく学校を休んだ。勤もオタク体質で、運動が得意ではない。 そんな彼らが友情を媒介に走ることに精力を傾けている背景には、隼斗の父親の存在があった。 毎年冬が来るたびに気管支ぜんそくが悪化して、苦しそうに咳き込んだり病院で吸入しなくてはならなくなる息子を見かねて、隼斗が小学6年生の夏休み、一緒に体力作りのために走ろうと、父親が提案した。 40代に突入した父親は、最近メタボが気になってきたからちょうどいいと笑った。 2人はほぼ毎朝6時半ごろから30分、一緒に走った。 そして、無理しないというモットーが功を奏したのか、2人のジョギングは半年も続いたのだった。 けれどもそれは、脱落でも怠惰でもなく、最も悲劇的な理由で中断した。 隼斗の父が、交通事故のために急死したのだ。 病院で息を引き取る前、父親が駆け付けた隼斗にかけた最後の言葉は、「一人でもちゃんと走れよ」だった。 隼斗はあふれる涙の洪水の中、「走るよ、お父さん!」と声を絞り出した。 しかしその約束は宙に浮いたまま、時が過ぎて行った。 父親の死から少しして隼斗は中学生になったが、父を突然失くしたショックはまるで彼自身が父と一緒に事故にあって身に負った後遺症のように、ずっと隼斗を苦しめた。 父との約束を果たしたかったが、走ると一緒に走っていた父親の不在が浮き彫りになるような気がして怖かった。 中学1年の夏休みは、父との約束を保留にしたまま、勉強や趣味に没頭することで気を紛らせた。 そして、秋になり木の葉が色付き始めるころ、隼斗は覚醒した。 走らなくてはという気持ちが噴出して再開したジョギングだったが、1か月後に段差で足を捻挫した。 足首をサポーターで固定して浮かない顔で登校した隼斗に勤が話しかけたところ、隼斗は怪我の原因と父親とのジョギングのことを打ち明けた。 「僕が隼斗の代わりに走るよ」 そう言って、勤は友人の手からタスキを引き受けた。 隼斗の健康増強のために始めたジョギングなのに、なぜ友人が代わりに走るのか。 それにはある意味があった。 そのカギとなるのが、RUN(ラン)君だった。
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